なんてトラブル体質(side香耶)

月神香耶side



あれからしばらく経ち、するりちゃんの自由度も増してきた。
何かと物入りな年頃の女の子なわけだし、屯所側にとっても貴重な女手だから。……するりちゃんが女手として役に立ってるかどうかは置いといて。今の彼女の立場は一応、女中ということになっている。
……っていうのもあるけれど、なにより私が口ぞえしてるから、っていう理由が一番だ。彼女の行動範囲が広がれば、重要な(というか迂闊な)アクションを起こしやすくなる。彼女の標的は未だに私らしいからね。

そんな裏事情も知らず、今日もするりちゃんは幹部にモーションかけたり、私の周りを怪しくうろついたりしていた。


「月神さん、あなたってしぶといのね。まだ新選組にい続けるつもりなの?」

「んー」

するりちゃんの前では、できるだけ私を嫌っている振りをするよう、幹部のみんなにはお願いしてある。
彼女はあの隊服踏み付け事件(?)をきっかけに、私が虐めるだとか脅してくるだとかあることないこと隊内で言いふらしていたからだ。

もちろん彼女がそうするたびにうかつな言動も端々で見られ、幹部はもちろん、するりちゃんを信じている隊士はほとんどいない。
いないけれど、幹部が私を裏切る振りをするよう密命を受けていることは平隊士も余すことなく知っていて、するりちゃんの企ては進んでいるように見えて完璧な一人芝居になっている。

「無視してんじゃないわよ! 一丁前に刀なんかぶら下げて、どうせ録に使えもしないくせに!」

私は縁側に座り彼女を前にして読みふけっていた本を、叩き落とされる前に仕方なく閉じた。私が読む書物はその大半が敬助君からの借り物なので、汚したり破ったりするわけにはいかないのだ。
しかしだらけきった私が本を片付けている間に、するりちゃんは脇に置いてあった“狂桜”をひったくった。

“狂桜”とは、私が唯一持つ凶器。大刀である。

彼女はその重さに多少目を見開きながらも、私の手から刀を取り上げることができて満足そうに笑う。

「どうするつもり?」

じつは取り返すことも盗られる前に自分で取ることもた易かった。
するりちゃんは見たところ体術や剣術などをたしなんでいるようには見えないから。
でもそれで彼女が何をするつもりなのか興味があった。

するりちゃんは“狂桜”を掴み、四苦八苦しながらその刀身を鞘から引き抜いた。彼女が怪我する前に止めてあげるべきだろうか。

「これであんたは破滅よ……!」

彼女はせっかくの可愛い顔を酷く歪め、“狂桜”の刃を自分の腕に滑らせた。
どうやら深く切りつける度胸は無かったらしく、うっすらと裂いたその傷口からはゆっくりと血の玉が膨れ上がって一筋流れ落ちた。

「きゃああああぁぁぁ!!!」

二度目となるするりちゃんの金切り声に、私は耳を指でふさいだ。



するりちゃんが“狂桜”を私の足元に投げ捨てる。
さすがに抜き身を地面に投げつけられたら刀身が痛む気がしたので、私はそれにとっさに手を伸ばした。

その間に私たちのもとに一番に駆けつけてきた幹部は。

「大丈夫かー? ……香耶、するり、」

たまたまなんだろうけど、来たのはまたも平助君で。彼も、またかよ、みたいな表情をした。なんてトラブル体質。君ってこういう星のもとに生まれたんだろうねぇ。

「平助くぅん、月神さんがぁ!」

「おい、香耶! 怪我してんじゃん!」

自分に駆け寄ってくるするりちゃんを無視し、平助君は声をあげる。

“狂桜”を掴みそこねた私のてのひらは、ばっくり切れていた。その傷口が人目に触れないように逆の手でぎゅっと押さえる。
血が地面に落ちないように私は必死だ。なんせ私の血は肌から離れると黄金になってしまうから。
だから私は、さっさと平助君にするりちゃんを連れて行ってほしかった。

「平、気……行って」

「でもよ、」

「平助くん、私、月神さんに斬りつけられてぇ。『邪魔だから消えろ』って、怖かったぁ」

「おまえのそれは!」

「平助君」

平助君が何かを言おうとするのを私は遮った。
まぁ、私が彼女を本気で殺そうとしたのなら、そんなかすり傷じゃ終わらない。仮にも新選組の平助君なら、それが斬りつけられたか自分でつけたか一目瞭然だろう。
というか自分のミスで負った私の怪我のほうが重傷である。
何か言いたげな平助君は、それでも私の意図を汲み取ってくれて、するりちゃんを気遣うふりをしながら彼女をつれて、庭を去ってくれた。


「っはぁー……」

「香耶君」

「うぉあ!!? びっくりした!」

「驚かせてしまいましたか。失礼」

「……敬助君。なんかすごい笑ってる。失礼、なんて心にも無いんでしょ」

「そんなことはありませんよ」

敬助君が私の隣に腰を下ろすと、その手に治療道具を持っていることに気付いた。どうやら私の傷を手当てしてくれるらしい。
私がおとなしく傷口から手を離すと、止まっていた血がぶわりと流れ落ち、黄金の塊になってばらばらと縁側や庭に散らばった。

「……血が止まるのが遅いですね」

「そうかな? あ、“狂桜”のせいかも。これでも名のある妖刀らしいから」

「羅刹の治癒力を抑えるというわけですか」

会話しながらもてきぱきと止血され、私の右手は包帯まみれになってしまった。
私はそれをためつすがめつ見つめて、ふぅ、と息を吐いた。

「総司君が騒ぎそうだな」

「あとは土方君も。貴女のことになると皆過保護ですからね」

「あはは」

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