やっぱり愉快なひと(side香耶)
月神香耶side
目の前のひとの顔色が、さーっと変わった。
私はそれに苦笑することしか出来ず、右手をとっさに後ろに隠そうとしたが彼に腕をつかまれてそれはかなわなかった。
「……なに、それ」
「なにって……み、右手?」
「僕が何を聞きたいかわかってるよね?」
総司君に、包帯の巻かれた右手を引き寄せられて、目線の高さに上げられる。
目を泳がせて後ずさると、背中がなぜか無いはずの壁にあたって驚いて顔を上げた。
「ヒッ!」
「ヒッじゃねえよ馬鹿野郎」
私がぶつかったのは歳三君だった。
前には黒い笑いを浮かべた総司君。後ろには眉間にしわを寄せた歳三君。
前門の虎、後門の狼、である。
後ろに気を取られている間に、総司君にてのひらを握られて私は痛みに顔をゆがめた。
「いった…!」
「……そんなに酷いんだ」
総司君は了承も得ず包帯を解いていく。
本来なら縫わなきゃならないほどの傷に、総司君や歳三君だけでなく、私まで顔をしかめてしまった。
「うわぁ…」
「てめぇの傷だろ。ったく」
自分の体の一部だからこそ、この惨状にドン引きせずにはいられないのだ。
「……許せないな」
総司君は目元に暗い影を作りながら私の手を握りしめる。ちょ、マジで痛いんですけど……!
見かねた歳三君が止めるまでそれは続いた。
「香耶。まだ続けるつもりか?」
「え? うん、そのつもりだけど」
むしろ作戦を継続することに何の疑問も感じていない様子の私に、歳三君は深くため息をついた。
彼らがするりちゃんのことを最終的にどうしたいのか知らないけれど、私自身は彼女のことをこの上なく愉快な人物だと思っている。
だって今のところ彼女が危害をくわえているのは、彼女自身だけだから。
彼女の目的ははっきりしないけれどなんとなくなら推測はできる。やっぱり愉快なひとだ。
するりちゃんは巡察に同行させてほしいと歳三君に願い出たらしい。
歳三君は当然それを許すはずが無い。
そもそも千鶴ちゃんが巡察に行けるのは綱道君……雪村綱道の捜索のためであり、刀の扱いを多少でも心得ていて、この新選組内でそれなりに信頼を築けているからである。
「千鶴ちゃん、おかえり。巡察どうだった?」
「父様の情報はまだ何も……」
困ったように笑う千鶴ちゃんはどこか弱弱しい。ぽんぽんと頭を撫でると千鶴ちゃんは花のような笑顔で笑ってくれた。