やばい、超怒ってる(side香耶)
月神香耶side
べつに総司君が本気でするりちゃんと浮気してるとか思ってるわけじゃないけど。
きっと転んだところを総司君が庇ったとか、そんな理由でしょう。(←おおむね当たり)
さて、総司君から華麗かつ大胆に逃げおおせ意気揚々と屯所を出た私は、その数日後。
なぜか千景君に捕まっていました。
「あるぇー……?」
「今回ばかりは悪運尽きたみてぇだなぁ」
いや、旧友のもとで高級玉露でもいただいてくる予定が、屯所を出て数分で運悪く千景君に遭遇。二日間にわたる鬼たちの鬼たちによる鬼たちのための壮絶なリアル鬼ごっこの末、こうして捕獲されたというわけなのだ。
「うるさいな。あたまをぽんぽんするのやめてくれない? 不知火君。そのガングロぼっこぼこにしてプチ整形してやんよ」
「意味よく分かんねえけど今すげえ悪寒が走ったぜ……」
「暴れないでください香耶殿」
天霧君の肩に担がれて新選組屯所に帰還する私。
みんなの驚く顔が目に浮かぶようだ。あはははは。
「ふん。案ずるな。新選組に降り立ったという噂の奇女を見極めたら、改めておまえを鬼の一族に迎えてやろう。香耶」
「どこにつっこんだらいんですかねーとうりょー。まず私は鬼になりたいとも鬼の嫁になりたいとも言ったことはないのだけど」
「おまえは俺の妻。頭領、ではなくいつものように気安く呼べばよい」
だめだこいつ話が通じねえ。
そして『噂の奇女』って……それ十中八九するりちゃんのこと、だよねぇ?
するりちゃん、まだ片手で数えるくらいの回数しか市中に出たことないのに、なんでそんな噂がたつんだろう。
千景君が噂の真相を調べに来るくらいだから攘夷浪士側にも警戒されていると思っていいはず。どんだけ奇怪な行動を取ったらそうなるんだ。
そうして鬼三人組に運ばれること暫時。
とうとう新選組屯所へとやってきてしまったのだ。
千景君たちは迷うことなく西本願寺の玄関近くの塀を乗り越え、新選組隊士たちと対峙した。
伝令が回り土方さんをはじめとする幹部達が出てきて、千景君、不知火君と切り結ぶ。
私はというと刀は取り上げられていないものの、エイリアンに囚われた人間よろしく天霧君にがっちり脇を固められていて、参戦も逃走も出来る状態じゃなかった。こうなっては無手の使い手である彼から逃げられるわけないのである。
「香耶さん!!?」
「なっ…なに捕まってんだよ香耶ー!!」
「卑怯な……天霧、香耶を放せ!」
まっ先に飛び出してきた総司君や、平助君、一君らが、捕まってる私を見て眉尻を吊り上げる。
やばい。超怒ってる。特に総司君が。
肌に突き刺さるような鋭い殺気を放つ総司君は、なんだかまるで二三日寝てないみたいな酷い顔だ。
ちなみに私は鬼ごっこ中とはいえこの二晩、夜はガッツリ寝ていた。日の入りから日の出までは休止、というのが暗黙の了解だったので。
ともあれそんな総司君が率先して千景君と斬り合うのは必至で、希代の剣豪達のいろんなものを懸けた打ち合いに、平隊士も幹部達さえも息を呑んだ。
しかしそんな折、殺し合いに良くも悪くも水を差す甲高い声が場を満たす。
「だめぇぇえええ!!」
さてその声に顔をしかめなかった人間がどれほどいただろうか。
思わぬ足手まといの登場に、この先どうなるのだろうとまるで演劇でも見るような心地で微笑んだのは、どうやら私だけだったようだ。
「これ以上争っちゃだめよ。きっと話し合えばわかるはずだわ」
悲痛に声を張り上げ千景君のそばに躍り出たするりちゃんが、どうにも喜劇の脇役にしか見えなくて、私は咽の奥でくつりと笑う。それに気付いたのはきっと至近距離で私をホールドする天霧君だけだろう。意識が他に向いた彼から身体の自由を取り戻すのは、そう難しいことではなかった。
一方するりちゃんの視線を一心に受ける千景君は、不快そうに眉間を寄せた。
そして彼女の咽元に刀を突きつけ、まるで汚物でも見るかのように面罵する。
「この女はなんだ」
このとき、するりちゃんの表情が硬直した。
自分に向けられる白眼視にいかに鈍い彼女にも、どうやら今の状況は理解できたらしい。
隠す気の無いむき出しの害意や、己への無関心。
それは彼女にとって、前進であろうか。それとも破滅であろうか。
(あれ……あたし、なんか嫌われてる……?)