05

真田幸村side



私が槍の穂先を着きつけ尋問しても口を開くそぶりも見せなかった赤髪の忍は、しかし香耶殿の質問には素直に反応を示した。

「君、うちの赤髪とやりあったんでしょ? 怪我ない?」

こくりとうなずく忍。
香耶殿の言う『うちの赤髪』というのは風魔殿のこと。さすがに普段生活するのにあの戦装束を纏うことはないが、それでも彼がこの世界で襲撃者に後れを取ることなどありえない、と思ってしまうのは、私が前の世で彼と対峙したことが幾度となくあったからだ。
その風魔殿は今ここにはいない。彼もたいがい自由なおひとだ。

香耶殿は目を細めて忍の顔を覗き込む。彼女の表情は、見るものの意識を飲み込もうとする老成した強者のもの。その可憐な容姿との違和感が、見る者の目を惹きつける。忍が微かに息を呑む気配を感じた。

「声が出せないの?」

忍は再びこくりとうなずく。

「じゃあ伝えたいことがあれば唇を動かすだけでいい。名は?」

「…………」

ぱくぱくと動く唇を読んだ私は、驚きに自分の目を疑った。



「ふうまこたろう……!?」

この者は、己の名を『風魔小太郎』と名乗ったのだ。

「え、本当に!?」

香耶殿が私と目を見合わせる。

この世界はもうひとつの戦乱の世であるゆえに、我々のほかに『竹中半兵衛』『真田幸村』『風魔小太郎』が存在することは知っていた。
知ってはいたが……。

「へぇ、実際似てないもんだね。同じなのは髪の色だけかぁ」

言って竹中殿がころころと笑うと、この世界の風魔と名乗った男が不思議そうに首をかしげた。

「風魔ってことは相模北条氏の手のものってことだよね。氏康さんか……氏政さんか」

断言されて観念したのか、あるいは香耶殿にははじめから逆らうつもりがないのか、風魔小太郎は迷うことなくそれを肯定した。



香耶殿の誘導と尋問により分かったのは、この者が北条氏政の命を受け、薬師・刀匠『明月』を捜索していたこと。そして『明月』と織田、朝倉とのつながりを調査していたことなど。可能であれば北条に取り込むことも視野に入れる、というものだ。

己の銘である『明月』の名が、これほどまで有名になっているのかと、香耶殿は純粋に驚いた。しかし私に言わせれば、香耶殿はどうも自己評価が低いような気がする。

それにしても、北条氏政か……風魔殿はこれを知っているのだろうか。
無論この者が嘘をついていないのなら、という前提が真っ先に来るが。

いずれにしろ私のなすべきことは、香耶殿を守り、彼女の守りたいと思うものを守ることだ。

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