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山南敬助side
戦場に竹中半兵衛が出てきたらしい。こちらの竹中殿ではなく、婆娑羅の世の竹中半兵衛だ。
で、それに対峙している者がいて、『月神重虎』と名乗る闖入者。子供だとか。
それ、間違いなく竹中殿でしょうね。
子供って……あのひとはあれでも黒田官兵衛殿(無双の)より二歳は年上だったはずですが。
不老不死の私が言うのもなんですが、詐欺ですよねぇ。
彼は意外にも接近戦タイプで、その攻撃範囲が広く、雑兵がひしめくような戦場に強い。
私としては、あまり前線に出たくないのですが、仕方ありません。あちらも私を探しているのでしょうし、竹中殿を回収に向かいますか。
今ではもう使い慣れた“夜の炎”を発動する。
目指すは織田と斎藤が今まさに激突する前線。
己の身に闇色の炎を纏わせれば、炎は従順に、およそ十丁(だいたい1km)先へ私を一瞬で運んだ。
さて、どんぴしゃで竹中殿と見知らぬ武将が対峙している空間に出ることが出来た私は、まず竹中殿に呆れた視線を向けた。
「探しましたよ、たけな……重虎殿」
「山南殿ー!」
いけないいけない。つい竹中殿、と呼びそうになった。この名はこの世界の竹中半兵衛対策でしょうし。
「貴方こんなところでなにを暴れてるんですか。慶次殿じゃあるまいし」
「あはは、ちょっと八つ当たりに夢中になっちゃって」
といいながら笑う竹中殿に反省の色はない。これも得意の軍略ですか。そうですか。
「あ、怒っちゃった、山南殿? ごめんね、今山南殿に見捨てられたら、俺やばいかも」
「いいですよ。貴方の八つ当たりなんて、あの方の暴走に比べれば可愛いものです」
香耶の八つ当たりはスケールが違いますよ。
例を挙げるなら無双世界で香耶が介入した桶狭間の戦いでしょうか。あの時私は、香耶の指示で今川義元殿の有幻覚を十体、さらにそれらにそれぞれに九体ずつの幻覚を作り、10組10名のパーティ、計100人の今川義元殿をあの戦に投入した。
あの光景は悪夢としか言いようがない。……いや、私も面白半分でやったのですが。その目的は今川の加勢などではなく……本物の今川義元殿を拉致することだった。
奇襲時に義元100人ぶった切った信長殿には本当、ご愁傷様としか言いようのない戦でしたよ。まぁ、あれで尾張のうつけの名を返上したといっても過言ではないですが。たぶん信長殿は心中複雑だったのではないでしょうかね。
で、肝心の理由が、当時香耶は北条氏康殿に気があったのだが、彼はすでに義元殿の妹姫を娶っていて、それがまた押しも押されぬおしどり夫婦だったわけで。じゃあもうこの晴らしようのないうっぷんを義元殿にぶつけよう、ということになったのである。紛う方なき完全な八つ当たりだ。
結局はあれで討ち死にするはずだった義元殿の命を救ったことになったので、あの理由付けが香耶の策だったと言えなくもないですが。
まぁ、真実は香耶のみぞ知るところ、ですね。
あ、あとついでに余談だが、あれ以来だ。風魔が香耶に付きまとうようになったのは。それで香耶のあずかり知らぬところで氏康殿に『風魔のかみさん』と誤解されていた。蛇足だが。
「ねぇ、君のその力は……」
「邪魔してスミマセンね、竹中半兵衛殿。重虎殿の探し人って私のことなんですよ。月を霞で覆い隠す。月の朧、山南敬助。月神軍の将です」
こちらの世界の竹中半兵衛は私の夜の炎に興味を示したようだ。
これで私も危険人物認定でしょうかね。
「月神なんて氏は聞いたことがないな。どこに仕えてるんだい」
「おれ達の総大将はこの日ノ本の列国のどこにも属してないよ。この世の人間の醜い覇権争いを、はるか高みから見守っていらっしゃる〜♪」
言いながら天を指差す竹中殿。
こらこら。言ってることはおおむね間違ってないですけど。それじゃあ香耶は神様ですか。ただの山暮らしのニート希望ですよ。
そして竹中半兵衛は私たちが真実を語る気がないと判断したようで、柳眉をひそめ怒気を纏う。
「気が短いなぁ。若い若い」
「この方は本当に“知らぬ顔の半兵衛”なんですか?」
「君たち、言わせておけば……」
おや、挑発しすぎたようですね。
殺気立つ竹中半兵衛を前に、私は竹中殿の肩に手を置き、再び夜の炎を発動する。要は言い逃げである。
「っ!」
「仲間も見つかりましたしもうここに用はありません。御前失礼します」
「、待て!」
「竹中さん、あなたがほんっとーにおれ達に用があるなら『刀匠・明月』をたずねておいでよ。おれ達が向かう先、あのひとが必ずいるから」
「おや、明かして大丈夫なんですか?」
「だって俺、おたずねものになるなんてごめんだし」
ああ、それは私もです。
「明月は貴方が説得してくださいよ」
「えー見捨てないでよ山南殿!」
こんなのんきなやり取りをしながら、私と竹中殿はこの戦場から離脱したのだった。
「……めいげつ、か」
くしくもこれが、明月・月神軍の名を広めるきっかけとなる。