20
月神香耶side
「ねえじっちゃん、小田原城の天守閣に上がってもいい?」
「おおいいぞい。我が北条家の栄光が築いた城郭と民の暮らしをとくと見渡すがよい!」
案外あっさりと城主の許可が下りた。
そうしてやってきた小田原城天守閣。
「やっぱ高いとこっていいよね。涼しいし、虫がいないし」
「そうですね。それに常より月が近いところにあるように見えます」
幸村君のロマンチストな感想を耳に、自分の女らしからぬ思考へ軽く絶望を覚えた。
私と一緒に天守閣に来ているのは、一歩控えたところにいる幸村君と、そのさらに後ろにいるあいかわらず無言を貫き通す風魔君のふたり。
幸村君は私の護衛で。わざわざ申し訳ない。
そんで風魔君は私の護衛なのか…私から城を守るためにいるのか。
じっちゃんはすでに私に気を許してるけど、そのぶん風魔君が私を警戒しなきゃねぇ?
丘陵地に建つ平山城から見下ろす景色は、前の世で見たものとそう変わらない。
だけれどもどこか大きな差異を感じてしまうのは、やっぱり誰かが足りない、と、そう思ってしまうからだろうか。
「はぁ……あの混沌どこで油売ってるんだ」
相模。北条。小田原城。甲斐姫や小太郎君、北条の家族たち。
私の中で足りないものは、おそらくこういうことだ。
「……風魔殿が心配ですか?」
「心配はするよ。小太郎君も心配だけど、敬助君や半兵衛君、それに当然、幸村君だって。すごく心配した」
「香耶殿……」
幸村君の問いに、私は小田原の景色を見おろしたまま答えた。
「私はいつだって、君たちにはしたいことをして自由に生きればいいと思ってる。だけど」
君たちは私が連れてきた。それに後悔はないし、皆も受け入れたこと。
だけどね。
「君たちのだれかひとりでも不幸になっちゃったら、きっと私は、私のせいだと自分を責める」
「……っ!」
ゆっくりと振り返ると。視界の隅で月がきらりと輝いた気がして。
「君たちは、特別なんだよ」
「香耶殿、」
だから、無茶しないで。自分の身を大切にして欲しいんだ。
振り向いた私の視線の先で、幸村君はその精悍な顔をを切なげに歪めた。