「アンタの負けだ」


スカタンクは戦闘不能となりトレーナーも倒れ込んでいる状況は勝利以外の何物でもなく、天雅は振り向く事なく静かにその場から立ち去った


「………フフ、フフフ。この私が負けるなんて……でも、まだこんなものじゃないわよ……覚悟なさい」


しかしジュピターが薄れる意識の中で呟いた言葉を、天雅は知るよしもない



「ふぅ………」


一方ギンガ団のビルを後にした天雅は、バトルに勝利したにも関わらずどこか納得いかないため息を溢す


「どうした?天雅」

「あ、いや。さっきのスカタンクの攻撃をかわせなかったのが少し悔しくてさ………鍛えてるつもりなんだけどなー」

「まさかお前、これ以上強くなるつもりか?」


公式戦なら間違いなく反則負け、非公式のバトルでも良識あるトレーナーならまず行わない正攻法を捨てた戦い方をされたのに天雅の悔しさは残るらしい
今回の悔しさを糧にパートナーが更に修行に没頭するのでは、という不安さえ強羅にはあった


「当たり前だろ?俺より強い奴なんて、いくらでもいるからな……だから」


だがその不安をよそに、天雅は言葉を続ける


「そいつら全員倒せるくらい、強くなってやる」


そして楽しみで仕方ないという表情を浮かべながら、天雅は言い切ってみせた
すると強羅は天雅の耳元に唇を寄せ


「……強くなる時は、俺も一緒だ」


約束を再確認させるように囁く


「そうだな、強羅」

「(耳元で囁くのは効くと思ったが、やっぱり鈍いな……それも好ましいんだが)」


何となく答えの見えていた結果とはいえ鈍感な相棒に若干の心残りはあるが、それでもひたすら前に突き進む姿に胸が自然と高鳴るのは昔からずっと変わらない


「マスター」


そんな中、天雅の元へ駿羽が羽ばたいてきて緩やかに肩へと止まる


「ん?何だ、駿羽」

「強羅と何話してんのー?」

「あー、そうだな……これからの目標……かな?」

「へぇー!マスターの目標って何なの?」


駿羽が眼を輝かせて聞いてみると、天雅はとびきりの笑顔でこう答えてみせた


「俺の目標は………強くなること!」


初心者トレーナーの頃から抱いている何の捻りもない目標だが、迷うことなくその目標に向かって走り続ける天雅の言葉は駿羽にとって何より特別に感じられる


「そっかぁ!じゃあ、俺と同じだー!!」


そして駿羽は嬉しそうに天雅の周りを飛び回り、天雅と自分の掲げるものが同じであることを喜ぶ


「あと、その目標には続きがあるんだ」

「続き?」


「うん!その続きは……、っ!?」


しかしそこで、無邪気にはしゃいで飛び回っていた駿羽の動きが途端に緩やかになって賑やかな羽音も一瞬にして静かになり


「駿羽………?」

「マスター………何か、身体が……っ」


次の瞬間、駿羽の体が震え始め光りだした


「…………あっ」


そう声を洩らした天雅の目の前で駿羽は瞬く間に光に包まれ、それは数秒かけて次第に淡くなりほどけていくと新しい姿を得たムックルの進化系、ムクバードが現れた


「駿羽………!」


蕩けそうな瞼をゆっくり開いて夢から覚めたような穏やかな顔つきのムクバードは、自然と人の姿を取ると真っ先に天雅に抱き付く


「うわっ!」

「俺の目標の続きは、『マスターを守ること』……!」

「えっ……?」

声も身長も少年から青年へと一歩近付いた駿羽に戸惑う天雅だったが、膨らんだ花の蕾を思わせる可能性に満ちた仲間の言葉に笑顔になってしまうのは仕方のないことで


「だから、ずっとマスターを守るよ………守らせて」

「あぁ、よろしく頼むぜ……駿羽!」



大切な人を、守りたいから


強くなる


強くなって、大切な人を守る


全ては、大切な人の為の


『目標』




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