あれから蝶屋敷へと案内され、目の前には可愛い可愛い胡蝶しのぶちゃんが!にっこりと微笑み口を開いた。
「煉獄さんの鎹鴉から軽くお話は伺いました。私も知らない場所でしたので、どこか遠いところでしょうか?」
「やっぱり……」
「やっぱり、とは何かご存知なのですか?」
キラリとしのぶちゃんの目が光り、口元は弧を描いているが鋭い目線が私を射抜いた。
やばい!失言してしまった!どうしよう、言い訳が見つからないっ!
「あの、れ、煉獄さんに聞いたこの辺りの地名も分からないし、一度も見たことのない風景だったのでっ」
「うむ、確かに友里は全く知らない様子だった。本当に遠方から来たのかもしれないな」
ここで煉獄さんからの助け舟!ありがたい!
「そうですか……こちらでも教えていただいた住所を元に色々と探ってみますね。ところで、友里さんはどちらに滞在されますか?」
しのぶちゃんに言われて気付いた。帰るところが見つからないと言うことは、寝る場所が無いという訳で……所謂家なき子というやつだ。
どうしよう、すぐに夢から覚めて自分の世界に帰れると思ってたけど、もし万が一帰れないということになれば住む所や知人さえ居ないとなると、天涯孤独で帰れる術を探さないといけなくなる。
時間軸としては世界大戦も迎えていない大昔の大正時代で。む、無理だ……これは賭けに出るしかない……。
「あの、私には頼れる人も、お金も無くて……」
「まぁ……」
「よもや……」
「恥を忍んでお願いがありますっ、なんでもするので少しの間泊めては貰えませんか?煉獄さん!」
がばりと煉獄さんの方を向いて土下座をする。
えぇ。煉獄さんにお願いしましたよ。大好きな煉獄さんのお宅で寝泊まりできるという下心を大いに抱えて。
蝶屋敷の方が私が出来ることは多いと思うが、煉獄家で寝起きの煉獄さんやご飯を食べる煉獄さんや鍛錬に勤しむ煉獄さんを見たい欲の方が勝ちましたすいません。
「俺は構わないのだが、父上と弟が居てな。一応聞いてみよう」
優しいよぅ!面倒見が良い煉獄さんのことだからキッパリ断ることは無いと思ってたけど、俺は構わないって、惚れてまうやろー!
「友里さん、蝶屋敷にいらしても良いんですよ?こんなこと言うのもなんですが、煉獄家には女性が居ないので不便があったりするかもしれませんし……」
煉獄さんの手前、少し言いにくそうにしのぶちゃんが心配して蝶屋敷にと促してくれた。
優しいっ!けど、私はどーーーしても煉獄家へ行きたい!不純な動機まみれだけど!
「本当に、ありがとうございます……けど、煉獄さんのお屋敷の近くで倒れていたと聞いたので、その近くに居た方が良いのかと思いまして……あっ全然何の確証もないんですけど……」
「それは確かにそうですね。何か手掛かりがあるかもしれませんし……」
おおお!しのぶちゃんを言いくるめてしまった!
「うむ!では父上と弟に一度尋ねてみよう!友里はここで待つと良い!」
「ちょっと待って下さいぃ!私も行きます!!」
勢い良く煉獄さんがそう言い放つと部屋を出ようとする。
だが千寿郎くんはともかく、煉獄さんの父である槇寿郎さんはきっとすぐには頷いてくれない。
ということは私も付いて行って、槇寿郎さんに土下座なり足に縋り付くなりして許しを得ないと断られてしまう!
土下座する勢いでお願いしに行こう!!
ーーー……
「……五月蝿い。どうでもいい。勝手にしろ」
結局、土下座をする前に煉獄さんと私でお願いしに行ったら、さも面倒臭いとでも言うように布団の上で寝転びながら背中を向けてそう言われてしまった。
うぅ〜ん、なんかこう、もっと不審者扱いされて、許さん!出て行け!と言われるかと思ったんだけど……簡単に言えば拍子抜けだ。
「良かったな、友里。千寿郎も姉が出来たようで嬉しいと喜んでいたし、しばらくはここに住むと良い」
「は、はい……ありがとうございます」
千寿郎くんはそれはもう輝く笑顔で喜んでくれた。お母さんも居ないし姉も妹も居ないから嬉しいのかな。こんな邪な思いを抱えたアラサー女が家に来てしまって申し訳ない……と心の中で謝っておいたが。
その千寿郎くんはどうやらおつかいに出掛けているようだ。煉獄さんが何かをお願いしていた。嬉しそうに、行ってきます!と元気よく邸を出て行った声が先程聞こえたばかりだ。
煉獄さんにもあんなに可愛い時期があったんだろうなぁ。
「煉獄さん、本当にありがとうございます。色々と助かりました」
お茶を飲んでゆったりしている煉獄さんに改めて頭を下げて礼を述べる。
「気にするな!これも何かの縁だ!」
煉獄さんは全く迷惑そうな素振りは見せない。
それに甘えきってしまっているが、この人は刀を握って人成らざる者と命のやり取りをする人だ。
陽の高い時間帯は安らいで過ごして欲しいと思う。
あれから陽が沈む前に千寿郎くんが帰ってきて、私の目の前に今日の戦利品を並べて笑顔を浮かべていた。
私に似合いそうな着物や髪飾り、紅や櫛や手鏡などといった物を買ってきたのだと嬉しそうに。
焦りながら、お金は……と聞くと煉獄さんが、俺がしたくてした事だから気にするな!と頭を撫でてくれた。
全部女物だし遠慮して返しても困るだろうと、2人に沢山お礼を言ってありがたく頂いた。
折角なので紅を塗ってみようと手鏡を手に取って自分の顔を見て違和感に気付く。
あれ?なんか若くない?……高校生の時くらいの肌の張り……嘘。
慌てて千寿郎くんに会いに行き恥を忍んで子供特有の正直さに頼り、何歳くらいに見える?なんて飲み会定番の質問をしてみたら、16か17歳くらいかと思っています!と元気よく返してくれた。天使かよ。
ゆ、夢の中では若返りも可能なのか……。
紅を塗るのも忘れて放心してしまった。
「でもいつまで続くんだろう、この状況……」
あの後ご飯とお風呂も頂き、客間に敷かれた布団を前に悩んでいた。夢だけど寝れるんだろうか。
「ま、いっか。夢だし、鬼滅の刃だし」
と、訳の分からない理由で楽観的に捉え布団へと横たわる。普段から寝付きが良い為すぐに睡魔がやって来た。
ーーー……