05


「ちょ、まっ、こっちくんなボケェエ!!」

「女だ!オンナだぁ!!」

「女は柔らかくてウマイ!俺に喰わせろ!」

今めっちゃ鬼に追いかけられてます。
2体同時とか聞いてない!1体ずつでお願いします!
逃げ惑う際に口汚くなるのは許してくださいぃぃ!!

杏寿郎さんから刀を預かり、千寿郎くんに火打ち石で切り火を貰い、槇寿郎さんは遠く玄関の方から視線を送ってくれた。
動きやすいよう袴を履き、以前巻きスカートに使った反物を仕立てた羽織で最終選別に挑む。藤の花が咲き誇る藤襲山へやって来たが、同じように刀を抱える人達は15人くらい居た。
漫画の通りに進み7日間生き残れと山に放たれ、
3時間ほど経った頃に1体の頸を切った時は震え上がった。
動物も殺した事がないのに、人の言葉を喋る生き物の首を切ったのだ。それも元は人間。分かってはいたが切った後ははらはらと涙が溢れ、塵となって消えた場所に手を合わせ、次は幸せになってくださいと祈る。
これからは大嫌いな虫だと思って切ろうと心に決めつつ、せめて喋れない存在であればと思うばかりだ。

「あー!もう、うざい!」

炎の呼吸 壱ノ型 不知火 連撃!

走っていた足を180度回転させ、その勢いで踏み込むと1体の頸を落とし、もう一度足を踏み込み後ろに続く鬼の頸も切り落とす。
また手を合わせ成仏を祈り山を見渡す。遠くの方で悲鳴が聞こえるのを確認してそちらへと足を向けた。

漫画のおかげで沢があるのを知っていた為、喉の渇きに飢える事は無かったが、お腹が減りすぎて生まれて初めて雑草を口にした。苦くてまずい。
あの悲鳴が聞こえた後、間に合わず絶命した同志が横たわり鬼が喰らっていた。
容赦なくその鬼を切り捨て、同志と鬼の成仏を手を合わせて祈り終わると同志をその一帯で一番大きな木の下に埋めてやった。
それが夜間はいくばか続き、気付けば神社の様な場所に辿り着きやっと7日経ったのかと思い、周りを見れば15人ほど居た同志は私を合わせて3人しか居ない。
煉獄家へと帰ってこれたのは鎹鴉を与えられ、刀の元になる鉱物を選んでから半日が経った時だった。

「よく、よく帰った……!よく頑張った!」

「へへへ………疲れちゃいました」

軒先で待ってくれていた杏寿郎さんの顔を見て気が抜けたのか、へたり込んでしまいそうになったら杏寿郎さんが抱き止めてくれて、7日間も野宿で臭いからとか恥ずかしいとか畏れ多いとか色々思う事があったが、
杏寿郎さんの匂い……良い匂い……。
これに落ち着いた。





ーーー……





昨夜、最終選別から帰ってきてから一番に用意されたお風呂に畏れ多くも入らせてもらい、うつらうつらとしながらご飯を頂き、疲れただろうと布団へと押し込まれてしまえば一瞬で眠りに就いてしまった。
早朝に目が覚め起き上がったらとてもすっきりしていた。後から聞いたら話だが、丸っと1日飛ばした朝だったらしい。30時間以上……いや、寝過ぎでしょ。
庭で朝の鍛錬をしていた杏寿郎さんに伝えなければと身なりを整えてから縁側で、おはようございますと声をかけてから正座をし、手のひらを八の字に床に付け深いお辞儀をして言った。

「炎柱様、私が鬼殺隊に入隊出来たのも、ここまで来れたのも貴方様のおかげです。本当にありがとうございました」

「おお!起きたか!どうした友里、そんなに畏まって」

「これ以上のご恩はございません。そしてこれ以上のご迷惑をお掛けしたくないと思い、炎柱邸をお暇しようと思う所存でございます」

これは最終選別の時から思っていた事。要はケジメだ。
師と仰いではいるが鬼殺隊に入ってしまえば上司と部下。簡単に上司と言っても杏寿郎さんは鬼殺隊の最高位にあたる炎柱だ。継子でもなんでもないのに柱と同居というのは一般隊士、それも新人にとって畏れ多いが過ぎる。

「炎柱様には感謝してもし尽くし足りません」

「俺の名前は杏寿郎だ!炎柱などではない!」

「えっ、あ……でも」

「友里が出て行く事は許さん!この屋敷に居る理由が欲しいのであれば俺の継子になれば良い!俺の事を炎柱などと二度と呼ぶな!」

怒ってそう言い捨てると風呂場の方へ足早に行ってしまった。
私には何がそこまで彼を怒らせてしまったのか検討が付かず、正座をしたまま呆然とその背中を見送っていた。
私の知る限り煉獄杏寿郎という男のイメージは弱きを助け強きを挫く正義感の塊で、義理人情に熱く、多少声は大きいが礼儀も弁えているような真っ直ぐ一本筋の通った男が憧れる漢という人物だと思っている。
だからケジメを付けて他の一般隊士と同じ様に炎柱様≠ニ呼び、僅かながらお給金も貰える上に任務が続くとある身だと自覚して煉獄家を出て藤の家紋を掲げる家や下宿を使わせてもらおうと思ったのに。

「えぇー……」

今はとにかく杏寿郎さんに謝らなければと思うが何を謝ればいいか分からず悩みパンク寸前だ。
取り敢えず朝餉の準備をしよう。





ーーー……