06


「や、やっぱり友里さんのご飯はとても美味しいです!」

「ありがとう、千寿郎くん」

今日の朝ご飯は鮭の切り身の塩焼きと大根おろしと大根とねぎの味噌汁と梅干しと白い炊き立てご飯だ。普通。
だがいつもは、うまい!うまい!と言って食べてくれる杏寿郎さんは静かに食べている。
それに気を遣ってか千寿郎くんが大きな声で褒めてくれる。

「えと……、お口に合いますか?えん」

ギロリ

「きょーじゅろー様」

さっそく睨まれてしまった。選別の時に、呼び間違えないように練習しなきゃとずっと杏寿郎さんを思い浮かべては炎柱様と変換していた為、逆に呼ぶなと言われた炎柱様と呼び間違えてしまう。

「あぁ、うまい」

そっっけなー!!!
なんだよその投げやりな言い方!子供かよ!ヘソ曲げた子供かよ!いや私からすれば19歳なんて子供だけども!てか私なぜか見た目は18歳くらい?だけど!
こんなギクシャクした関係は嫌だから早いとこ話をつけて謝るなら適当に謝ってしまおう。

「杏寿郎様、後でお話があります」

「……あい、分かった」

謎の怒りをぶつけられてこっちが腹立つわい!
煉獄杏寿郎という人物は存在自体が神だと思うほど推せるけど!こんな態度を取られると腹立つ…し、悲しいし腹立つ!と心の中はぐちゃぐちゃだ。
千寿郎くんがあたふたしながら私と杏寿郎さんを交互に見ているが、我関せずと鮭を突いている槇寿郎さんを見習って、私ももう知らねーとぷんすかしながら味噌汁を煽った。

「失礼致します」

「……あぁ」

返事を聞いた後、部屋に入った。
杏寿郎さんと向き合うように座り、真剣な面持ちというか少し怒った感じのギョロっとした目を見る。

「此度の事は申し訳ございません。が、私にはなぜ杏寿郎様が怒っていらっしゃるのか分かりかねます」

「っ!その呼び方も喋り方も気に食わん!」

「なぜでしょうか?私は鬼殺隊の一般隊士で貴方様は炎柱様です。気安く呼び話し掛ければ他の隊士の志気に関わります」

あの優しくてホワホワした煉獄杏寿郎はどこに行ってしまったのか。
鍛錬の時は怪我を伴う為、私を想って叱ってくれた時はあったが、ここまで怒ったところは見た事がない。

「君は友里だ!鬼殺隊士の前にこの煉獄家で暮らす一人の女子だろう!」

ビリビリと空気が震えるほどの声量で怒鳴られ、はっと気が付いて杏寿郎さんの視線を真正面から受け止める。
まずは鬼殺隊に入隊することを目標に杏寿郎さんを救う道を探そうと躍起になって無我夢中で進み、隊士になったら礼儀や世間体で杏寿郎さんや煉獄家と距離を置かなくてはと突っ走ってしまっていた。
そうだ、私は住所不定無職の得体の知れないただの女で、煉獄家に保護された身だ。

「君は頼る人物が居ないと言ったあの時から煉獄家で歓迎されている。ここが帰る家だと思ってはくれないのか?それ程に友里から切り離したい所なのか、煉獄家は」

いくばくか柔らいだ表情で語り掛けてくれる。
自分から杏寿郎さんを頼っておいて、稼げるようになったらお払い箱と思われても仕方がないことを言っていたんだとようやく理解した。
杏寿郎さんは私を想って、出て行く必要も無いし遠慮する必要も無いと優しさで伝えてくれているんだ。
ぼたりぼたりと両目から大粒の涙が溢れる。
そんな事、誓って思ってはいない。

「ちが、う!違う!一番、杏寿郎さんに迷惑が、掛かると思って!違う、そんな事、言わないで……違うの……」

「泣かないでおくれ。友里の言いたい事も分からんでもない。だが俺達は出ていって欲しいだとか一般隊士だから距離を置いてくれなど一つも思ってはいない。いつもの友里を大切に想っている」

優しく抱き寄せて頭を撫でてくれている。
広く厚い胸板に額を預け、違う違うとうわ言のように呟きながら止まらない涙で杏寿郎さんの着物を濡らした。
私も選別前は厚かましくずっと煉獄家でお世話になりつつ杏寿郎さんの役に立とうと思っていた。
だが、選別に集まった同志達は私を見るなりひそひそと話し始めたのを聞こえてしまったのだ。

アレは炎柱様の抱える慰み女

と。
カッと頭に血が昇り言った奴をあぶり出そうと思ったが、目を閉じて3秒数えて冷静になり選別へと意識を集中させた。
名前も知らない奴に私を通して杏寿郎さんを愚弄し侮辱された事がはらわたが煮え繰り返るほどの怒りを生み出し、慰み女の意味が分からないほど知能は子供じゃない自分が恨めしい。
何より言い方と内容は違えど、そう言われても仕方がない私の出自では何も言い返せない。
大声を張って違うと言いたい。ただの善意で煉獄家へ置いてもらっていると言い触れたい。煉獄杏寿郎という男はそんな小さい男では無いと叫びたい。

「わ、私は、杏寿郎さんも、千寿郎くんも、槇寿郎さんも、大好きなのに、煉獄家が大好きなのに、なんでっ……」

なんで私が出て行かなければいけないのか?
考えて考えて考えついた結果、他の隊士と同じ様に振る舞って距離を置けば杏寿郎さんをバカにした様な事は言われないと思った。
でも、煉獄家の人達から出て行けと言われた訳ではない。

「…誰かに何か言われたのか?」

「うぅ……、…や、ちが」

「そうか、何も気にすることはない」

誰かに言われたのかという確信を突かれ、気まずく思い杏寿郎さんを見た後、少し逡巡した末に否と答え終わる前に、にっこり笑った杏寿郎さんそう言われてしまった。その額には気のせいか青筋がいくつも浮かんでいる。

「さ、顔を洗ってきなさい。鼻水が出ているぞ!」

「えっ!見ないでぇえ!!」

「はっはっはっ!」

慌てて水場へ駆け込み顔を洗っていると、後ろから杏寿郎さんが、少し出掛けてくる!と家を出て行った。
それから私が聞いた噂はまた形を変えて流れているのだとか、いないのだとか。





ーーー……





遂に来てしまった……この時が!!

「鬼を連れた隊士に会った!」

私の出て行く騒動から一年が経ち、会得しきれなかった炎の呼吸の修得を諦め、その代わりに色の呼吸を生み出していた。
頭の中で絵を思い浮かべ予測して色を塗り替えたり無くしたりする想像を日輪刀に載せて技を繰り出す呼吸だが、いくら練習しても炎の呼吸が弍ノ型より先は使えずに途方に暮れながら夕焼けを見て、杏寿郎さんみたいな色で綺麗だなぁ、もしこの色が消えてしまったら嫌だなぁ、と思い付きでやってみたら出来てしまった呼吸だ。
この呼吸を生み出した時に、だからか!と妙に納得した。受け取った日輪刀がやんわりと交わるように三原色に染まったからだ。
そんなこんなでコンスタントに任務に行きつつ日々鍛錬をこなしていっていた夕飯時、杏寿郎さんが興奮気味にそう言い放ったのだ。

「え?お、鬼を?」

私も少し興奮気味にそう返す。
これはまさか、いや、よもやよもや!
鬼滅の刃の主人公、竈門炭治郎との柱合会議編が終わったところなのか!
だから今日は朝から出て行って帰りが遅かったのかぁ。ってことは、あの酷い言葉を言ったのね杏寿郎さんは。鬼もろとも斬首する!って。

「ああ!鬼の妹を連れた少年の隊士だ!お館様が赦したからな!俺も見守ってみようと思う!」

まぁ、お館様に言われてしまっては仕方がないのだろう。
一般隊士である私は見れないとは思っていたが、ちゃんと物語は進んでいるんだ…そう思ったら居ても立ってもいられなくなってしまった。

「杏寿郎さん、その少年に会いに行っても良いですか?」

「……何故?」

「えっ」

なんで急に不機嫌?
さっきまであんなに元気良くハキハキ話してくれていたのに。確かに杏寿郎さんは鬼を連れているというだけで炭治郎のことを良く思ってないだろうけど……。

「会う必要は無いだろう」

「そ、そうですけど……気になってしまって」

「気になる程度なら今すぐ会わずともいずれ会える」

さぁもうこの話は終わりだ!と言って杏寿郎さんは夜の鍛錬の用意をし出してしまった。
なんでそこまで制限されなきゃいけないのー?良いじゃん別に!
と口が滑りそうになったが、良い事思い付いた!と台所へと足を運ぶ。

「明日は〜、ナスはあるし……」

うん、明日は肉が食べたい。肉を探しに旅に出よう。
そう心に決め、洗い物を済ませる。

「どうしても明日の朝に買っておきたい物があるので、朝餉の用意をしたらすぐに出かけますね!」

だからもう寝ます!と鍛錬中の杏寿郎さんに声を掛けていそいそと自室へと向かった。
肉を探すのは骨が折れるかもね〜。この時代に新鮮な美味しいお肉なんて。

「ふむ………」

と、返事も聞かずに掛けていった私に杏寿郎さんは何か勘付いたのだった。





ーーー……