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(目のやり場に困るね/立海all)

8月下旬、全国大会から数日後。森に囲まれたペンションに、幸村、真田、柳、丸井、ジャッカル、柳生、仁王の7名はいた。目の前のテーブルには肉、魚介、野菜と新鮮な食材が並んでいる。

「叔父さん、気を遣わせてしまってすまないな、ありがとう」
「たくさん食べて楽しんでくれ」

柳が感謝の言葉と共に、その食材を提供してくれた叔父に礼をすると、叔父は嬉しそうに笑った。

夏休みもあと1週間を切った頃、彼らは柳の叔父が経営するペンションに2泊3日で遊びに来ていた。
元々は幼馴染3人組のゆめみ、ゆめこ、柳の3家族で休暇を楽しむために予約していたのだが、
それぞれの親に予定が入ってしまい、空いたところに柳がテニス部の友達に声をかけたのだった。
このペンションは有名な避暑地にあり、敷地内には大きなホテル、テニスコート、プール等の施設も充実している。

1日目の今日、ペンションに着くや否や彼らはラケットを持って施設内のテニスコートに直行した。この顔ぶれでの練習は初めてであったが、気を遣う先輩不在の上、全国優勝の後ということもあり、程よいリラックス感の中『楽しいテニス』の時間をそれぞれが過ごしていた。
動き回った後は、夕食のためにペンションに戻ってきたのだった。
ペンションには広いウッドデッキが付いており、備え付けのテーブルと椅子があった。テーブルの真ん中にはバーベキューが出来るようにアミが置いてあり、既に炭が準備されている。
7人は円状に座り、今まさにバーベキューを始めようとしていた。

「ところでゆめみちゃんとゆめこちゃんは?」

柳の叔父は笑顔を貼り付けたまま、柳にそう問う。その言葉端から、おそらく叔父がここまでサービスをするのは2人のためなのだろうな、と皆は思った。

「まもなく到着する、あと2分といったところか」

柳の返答に、丸井がやけにソワソワし始めた。丸井はこの合宿にゆめこも参加すると聞いていたから期待していたのに、今の今まで会えていないことに不満を持っていたのだ。

「みんなー!」
「遅くなってごめんね!」

とその時、ゆめことゆめみの姿が見えて来た。森の向こうから、手を振りながら満面の笑みを浮かべて歩いてくる。
2人でお揃い、色違いのサマードレスに身を包み、髪型もゆるいポニーテールで揃えたその姿は、人目を引いていた。最初は可愛い2人に手を振り返していたメンバーだったが、近づくにつれて異変に気付く。
ゆめみとゆめこの姿が少々、いやかなり開放的なのだった。ミニスカートに加え、肩紐が無いストラップレスタイプのワンピースだった。
完全にバカンス気分のゆめみ、ゆめことテニス合宿気分のメンズのギャップが浮き彫りになった形だ。
中学1年生の彼らには少々刺激が強く、もしもこの小説がギャグタッチならば3人くらい鼻血を出していただろう。

「ゆめみ、ゆめこ、いい買い物が出来たようだな」

ただ1人、毎年のことで免疫が出来ている柳が普通にゆめみ達に声をかけた。
よく見ると、2人の肩には色とりどりのショップバッグがかけられていた。近くのアウトレットで買い物をしていたのだ。

「うんっ!」
「最高!」

2人は輝かしい笑顔でそう言って、柳の叔父に挨拶した後、きゃぴきゃぴと荷物を置きに部屋に一度入って行った。
柳の叔父も可愛い姪っ子(のような2人)に会えて満足したようで、ペンションを出て行った。

「たまらん!」

一番最初に、真田が机にドンと頭を打ち付けた。それを皮切りに、メンバー達はぽつぽつと話出す。

「可愛いすぎるだろぃ」
「目のやり場に困るね」
「いやぁ、女子の夏服とはいいものですねぇ」
「良いモン見ちまったな」

丸井、幸村、柳生、ジャッカルの順に中学生らしい反応をする。みんな浮かれて空気が少しピンクがかったように感じる。
仁王は伸びた真田をペシペシ叩きながら「いいんかの?このままでは真田が死んでしまうダニ」と言った。
顔を真っ赤にして伏せっている真田を見て、全員確かにと思ったのか、自然と柳に視線が集まった。しかし柳はいつもの涼しげな表情のまま。

「心配は無用だ」

「「おまたせー」」

ドアが開いて、ゆめことゆめみが戻って来た。その姿を見て、一瞬で柳の『心配無用』の意味を理解する。
ゆめみとゆめこはTシャツにデニム生地のハーフパンツに着替えていたのだ。
少し安心すると共に、残念な気持ちにもなるのは年頃の男の子として仕方がないことだろう。しかしそのTシャツもお揃いで、センスの良い可愛いモノだった。

席が柳と幸村の間か、丸井と仁王の間しか空いていなかったため、自然とゆめみは幸村の隣に、ゆめこは仁王の隣に座った。グラスにジュースや炭酸飲料が注がれると、皆は乾杯をするためにそれを手に取った。視線が自然と声をかけてくれた柳に集まる。柳はそれを敏感に察知すると「こういうことは不慣れなのだが」と前置きした後、口を開いた。

「今日は直前の呼びかけにも関わらず、集まってくれて感謝している」

柳はここまで言うと、予知していたかのように言葉を止めた。代わりにゆめみとゆめこがグラスを高く上げる。

「「立海全国優勝おめでとう」」

ゆめみとゆめこはとても嬉しそうに笑った。皆一瞬目を見開いたが、その笑顔と言葉に、表情が柔らかくなる。

「幸村くん、真田くん、蓮二、試合お疲れ様」
「ブン太くん、ジャッカルくん、仁王くん、柳生くんも応援頑張ったね、そして私とゆめみも暑い中頑張った、感謝してよね蓮二」
「あぁ、無論だ」

ゆめみとゆめこの続いた言葉に、俺たち全国優勝したんだな、という実感が改めて湧いてくる。
あの、全国大会決勝戦。最後の1球がコートに入った瞬間が思い出される。全員で立ち上がって勝利に熱狂した。あの時の興奮、一体感は生涯忘れることはできないだろう。

立海大付属中学校全国大会優勝。

試合に出ているいないに関係無く、誇らしく思った。

「ふふ、そうだね、皆の応援のおかげだよ、ありがとう」
「うむ!感謝せねばな!そしてここで足を止める我らではない!来年は皆にも試合に出てもらうぞ、立海全国二連覇に死角は無い!」

「ええ、もちろんですとも」
「うっし!来年は俺の活躍みてろよぃ」
「ああ、やってやるぜ」
「ピヨッ」

全国への想いを口にして、皆一斉にグラスを掲げた。

「乾杯!」

大自然に囲まれた解放的な雰囲気に、美味しい料理、気の合う奴らとの楽しい会話、その全てが心地よくて。ペンションからは暗くなるまで楽しげな話し声や笑い声が絶え間なく聞こえていた。

バーベキューの後は皆で隣接するホテルの大浴場に行き、その後はペンションのリビングで大トランプ大会が始まった。
大貧民(大富豪仁王に誰も勝てない)や神経衰弱(柳の独壇場)、ダウト(真田の一人負け)等のゲームを楽しんでいると、真田が立ち上がった。

「すまんが先に休ませてもらう、お前たちも夜更かし厳禁だぞ」
「嘘だろぃ、まだ9時半だぜ?」
「弦一郎は毎朝4時起床だ、許してやれ」
「4時!?」
「夜中じゃねーか」

丸井とジャッカルの驚きに、柳は「坐禅と剣道の早朝稽古が日課だそうだ」と補足した。「ここでもやるつもりなのかい?」と幸村が聞くと、真田は「無論、例外は無い!」と言い残して去って行った。
残ったメンバーは「真田らしい」と顔を見合わせて笑う。
その時、ゆめみが柳の肩に寄りかかった。柳はまるでその行動を予知してたかのように、ゆめみを優しく受け止める。

「ゆめみ、お前も休め」
「・・・うん」

ゆめみは目をこしこしとこすって返事をしたものの、睡魔に勝てないようで、そのまま目を閉じる。そんな無防備なゆめみは珍しく、幸村は隣でクスクスと笑った。柳は1つため息を吐くと「仕方のないやつだな」とゆめみを抱き上げた。
それを見たゆめこは「じゃあ私も休むねー、おやすみ」と両手の使えない柳のために、ドアを開けて、3人で廊下へと進んで行った。

「なあなあ、柳ってさゆめださんのこと好きだよな?」

柳のお姫様抱っこをニヤニヤしながら見ていた丸井は、少年らしい表情で切り出した。すると、隣に座っていた柳生が意外そうな顔をして「お付き合いしているのではないのですか?」と返してくる。いつかのケーキバイキングでゆめみが誰とも付き合っていないことを知っている丸井は否定しようと「それがさ」と口を開いた。

「柳とゆめださんはただの幼馴染だよ」

しかしそれよりも早く幸村がそう言い切って、丸井は少し驚いた。『ただの』という形容詞が強調されているようであったし、それまで柔らかだった幸村の雰囲気が変わったような気がしたのだ。一瞬の焦り。丸井は慌てて話題を変えようと、思考を巡らせた。

「面白そうじゃのぅ、冷静沈着な参謀の意外な一面が見れるかもしれん」

しかし、時すでに遅し。ペテン師仁王の口元が綺麗な弧を描いていた。


「ルールは簡単、それぞれの質問にイエスかノーか答えるだけぜよ」

柳が戻ってくると、仁王が新しいゲームをしようと切り出した。柳、幸村、ジャッカル、丸井、柳生、仁王の順に目の前に1枚ずつトランプを配り、真ん中にうちわを置いた。仁王の説明だと質問に対して、トランプをイエスなら表、ノーなら裏にして、うちわの中に見えないように入れるのだそうだ。トランプの絵柄は毎回違うものを利用し、誰がどっちの選択をしたかはわからないように配慮される。

「フッ、データを取られているようで落ち着かないな」

柳はそう言ったものの、特に否定的なことも言わなかったため、ゲームが開始された。

最初は「正直全国優勝できると思っていたか」、「 立海テニス部のジャージはかっこいいと思うか」等の当たり障りの無い質問から始まった。回答がオープンになる度に、どよめきや笑いが起こる。自分以外の誰がどっちの回答をしているかわからないため、自分の回答が少数派だった場合、少なからず動揺が走る。メンバーはその反応を見て、誰がその回答をしたかニヤニヤと予想するのである。
ちょっとしたスリル感と、友人の秘密を覗き見るような罪悪感が場を盛り立てる。

質問が3周目に突入した頃から、恋愛関係の質問が出てきた。「気になる子には自分からアプローチするか」、「モテたいと思ったことがあるか」そして、丸井の番になり、「女の子と付き合ったことある?」と聞いた。ここまでの流れで、ポーカーフェイスが上手くなった彼らは笑いそうになるのをこらえながらカードをうちわの中に入れる。
丸井が恐る恐るうちわを開けると、結果は0枚だった。

「誰もねぇのかよー、つまんねぇ」

次は柳生の番だったが、柳生は言葉を詰まらせてしまった。「なかなか質問を考えるのも難しいものですね」すると、仁王がニッと笑って柳生に耳打ちした。

「では、皆さんに質問です。初恋の経験がありますか?」

柳生がまるでクイズ番組のナレーションのように良い声で質問を述べる。その言い方が面白く、それだけで少し笑ってしまう。無表情が重要なゲームなので、丸井は「柳生、笑わせんの反則だろぃ」と文句を言った。皆がカードを入れて、柳生が開けると、裏だったのは2枚のみだった。

「へぇ、意外だな」
「幸村くん、それは恋をしたことが無い人が2人もいることにですか?それとも逆でしょうか?」

幸村の口から漏れた言葉に、柳生が突っ込む。幸村は初恋の経験が無く、半数以上が経験済という結果に驚いたのだった。しかしそれを言ってはつまらないので、幸村は「それはどうかな?」と曖昧な返事を返した。
そして、仁王のターン。

「これが最後の質問じゃき、今好きな人、もしくは気になる人がいるか?」

その質問に、柳以外のメンバーは仁王の意図を理解する。柳はいつもと特に変わった様子はない。淡々とカードをうちわの中に入れた。
結果は表が2枚。やっぱり、という確信と共に自然と視線が柳にいく。柳はその視線を感じたのか、フッと笑った。

「何か俺に聞きたいことがあるようだな」

「2枚の内1枚はお前さんじゃろ?」
「ああ、そうだ」
「それはズバリゆめだゆめみじゃな?」
「ああ、そうだ」

仁王の質問にさらりと答えた柳。その表情は無表情で、眉毛1ミリ動いていない。仁王は気だるそうに頬杖をついて「つまらん」と言った。恋バナをしているはずなのに、全然盛り上がらない雰囲気に、丸井は首を傾げる。

「もっともったいつけろよぃ、なんで話してくれたんだ?」
「勘違いをさせていたようで申し訳ないが、俺は隠していたつもりは無い。ただ、そう言われるとゆめみが好きかと問われたのは初めてだったな」
「まじかよ」

ゆめみと付き合っているのか?と聞かれることは多かったが、好きなのか?と聞かれたことは一度も無かった。ゆめこや姉からも直接聞かれたことは無い。それでも、多くの人に気持ちを気付かれていたのだから、自分は分かりやすいのだろうと柳は思っていた。

「告白はしないのですか?」

掘り下げて来たのは意外にも柳生だった。柳は「予定は無い」と答えた。

「なんでだよ?告白すれば意識してもらえるかもしれないだろぃ?」

丸井は柳にそう聞いてから、ハッと幸村を見た。幸村がどう思っているのかが気になったのだ。幸村は特に変わった様子は無く「知らなかったよ」と柳に声をかけた。

「告白しない理由を知りたいのか?」

そこで柳は初めて眉を下げて困った顔をした。いつも冷静でほとんど表情の変わらない柳の変化に、メンバーは少し驚く。

「簡単な話だ、知っているからだ」

その声は弱々しくて、柳は自虐気味に小さく笑う。

「ゆめだゆめみが柳蓮二を好きになる確率が0%ということを」

一瞬の静寂が訪れた。その絶望的な数字に、息を飲む。柳のデータの正確さはここにいるメンバー全員が認めていた。その柳が0%と言ったのだ。誰も慰めの言葉をかけることが出来なかった。

「すまないな、せっかくの楽しい雰囲気を壊してしまった」
「すまん、俺のせいじゃ、参謀がそんな重たいモノを抱えているとは」

仁王が謝ると、柳は「気にするな」と首を振り、「諦めている訳ではない」と付け加えた。

「ですが、可能性は無いのでしょう?新しい恋を探した方が良いのでは?」

再度柳生が斬り込んでくる。柳は口を開いて、一度閉じた。少し考えてから、「笑ってくれて構わない」と前置きをした後、もう一度口を開いた。

「・・・結婚したいと考えている」

どよめきが生まれる。柳の言葉にも驚いたが、それ以上に彼らは柳の表情に驚いていた。
常に冷静沈着で無表情な柳が、赤面していたのだ。機械仕掛けのデータマンも普通の男の子なんだな、と知った瞬間だった。
柳はその後、好きになってもらえる可能性は無いが、結婚適齢期までお互いがフリーでいれば、成り行きで結婚出来るのではないかと考えていると説明した。
世間の既婚者の10人中10人が好きな人と結婚しているわけでは無い。
俺はその奇跡をただただ願っている、と。

「ゆめみには俺の想いは知られたくない、正直そっとしておいて欲しいというのが俺の願いだ」

柳はその言葉で締めくくった。

「応援するぜよ」

真っ先にそう言ったのは仁王だった。柳はしかめ面をする。「そう警戒しなさんな、本心ダニ」と仁王が言えば、柳は少し笑って「冗談だ、ありがとう」と答えた。

「俺も応援するぜ、なぁジャッカル?」
「ああ、そうだな」
「私も皆さんと同じ気持ちです」

丸井、ジャッカル、柳生が同意する。そして皆より少し遅れて幸村が「応援するよ」と言った。普通そうに見えて、その瞳は揺れていた。柳はその瞳の色に気付いたのか、気付いていないのかはわからないが、「すまないな」と言った。

「じゃあ、恋バナを続けようぜ、柳だけに話させるのは悪いだろぃ?とっておきの失恋話をしてやるぜ、ジャッカルが」
「おい、オレかよ」

丸井は暗くなったムードを盛り上げようと手を叩いた。ジャッカルは不満げに「しかも失恋話かよ」と文句を言った後、小さな声で「お前が話せよ、もう一枚の表はお前だろ?」と丸井だけに聞こえる声で言った。

「もう1枚の表はお前だろう、仁王」
「プリッ」

他の誰にもジャッカルの声は聞こえなかったが、読唇術を会得している柳は察知して答えを述べた。

「まぁ、ペテンだろうがな」
「ピヨッ」

隣同士で柳と仁王が話をしている中、ジャッカルは驚いて丸井を見る。丸井は視線を外して知らんぷりしている。ジャッカルは意外そうな顔をして、それ以上何も言わなかった。

「立候補がいないようですので、私の話をしてもいいですか?」

その後、空気を読んだ柳生が幼稚園の頃の初恋の話をして、場を盛り上げた。
秘密を共有した彼らは、ちょっとだけ絆が深まったような気がしていた。



(180409/小牧)
夢主1は→29 夢主2は→30

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