「は〜無理…格好良すぎて死ぬ…」

 私が顔をとろけさせながらそう言えば、目の前に座るしのぶはまたか、と言わんばかりに顔を顰める。仮にも同僚兼友人にその顔はどうなんだ、と思うが、そんな事は気にならないくらい今の私は幸せなので良いのである。

「…面倒くさいので聞きたくありませんが、炭治郎君と何かあったんですか?」
「面倒くさいとか言わないでよー!いやこの前さ、炭治郎君と任務で一緒になったんだけど、1日見張りで何も食べてなかった私を気遣ってお団子をわざわざ買ってきてくれてねー!もうほんと優しいし格好良くない!?」
「彼の顔つきでしたら、一般的には可愛いと言われる部類じゃないんですか?」
「いやあれは格好良すぎでしょ!顔もそうだけど内面も!惚れるなっていう方が無理だよ!」

 転びそうになった私を軽々と受け止めたり、私の頬に付いていた返り血を当たり前のように拭き取ったり、何回私の心をときめかせたは分からない。彼は私よりも歳は下だけれども、こんな事されたら惚れない方が難しい。その優しさが私だけに向いてるものではないとしても。

「はぁ…炭治郎君が格好良すぎて死ねる」
「俺がどうしたんですか?」
「そうそうこんな国宝レベルの笑顔で話しかけられるだけで惚れない方がおかし…って炭治郎君!?」

 聞き覚えのある声がして振り向けば、そこには会話の主役である炭治郎君がにこにこと笑顔を向けて立っていた。今日も眩しすぎるくらいの笑顔だ。

「い、いやなななな何もないよ!!!た、炭治郎君こそどどどどうしたのこんなところで!!!」
「名前、動揺しすぎじゃないですか」
「あはは、お腹空いたので善逸とご飯食べに来たんです。そしたら賑やかな声が聞こえたので」

 そう言いながら彼は、先に席に座っている善逸君を指差す。は、恥ずかしい。話の内容は聞かれてないよね。善逸感は凄く耳が良いらしいけど、炭治郎君はそうではないから大丈夫な、筈。

「そうだ、名前さん。名前さんに渡したい物があったんです」
「は、はい…!」

 そう言ってごそごそと衣嚢を漁る炭治郎君。炭治郎君から貰えるものなら何でも嬉しい。虫だとしてもゴミだとしても嬉しい。彼から貰うものならば絶対に大切に持って帰って家宝にしよう、と私は心に決める。

「出先で見つけて思わず買ってしまったんです。名前さん、前に髪留めが壊れたと話していたので…」

 そう言って炭治郎君は髪留めを私に差し出した。
前に少しだけ話していただけなのに、何てことない会話を覚えていてくれたというのか。それだけで嬉しくて頭が沸騰しそうになる。

「え、そ、そんな、私に…?い、良いの…?」
「はい!名前さんに似合いそうだなと思って買ったので、貰っていただけると嬉しいです」

 おそるおそる受け取ると、それは控えめに飾りが付いている綺麗な髪留めであった。派手すぎず、それでいてほんの少しだけ主張するように飾りが輝いている。私の好みのデザインだ。

「あ、あ、ありがとう…!すっごく嬉しい!大切にするね!」

 それに、何より炭治郎君が私の事を考えてこれを買ったと思うと物凄く嬉しい。胸に抱くように髪留めをぎゅっと握り締める。

「はい!あ、ちょっと貸してもらってもいいですな?」
「?」

 そう言われて炭治郎君に髪留めを渡せば、背後に回って髪を触られる。

「えっ!た、炭治郎君、な、何を…!」
「こう見えてもよく妹達の髪の毛を結んでいたんですよ…よし!」

 見てみてください、と言われて持っていた鏡で自分の頭を見てみれば、先程の髪留めが私の頭に付けられていた。髪留めを壊してしまってからは流していた髪の毛も、彼の手によって綺麗に纏められている。髪留めをくれただけではなく、直接彼に髪を結んでもらえるなんて、そんな、

「うん。やっぱり名前さんによく似合っています」
「こ、これは…現実…?」

 思わず自分の頬を摘まむが、その痛みはこれが現実だという事を思い知らせてくれる。喜んでいただけたのなら良かったです、と笑う炭治郎君。やっぱり、こんなの惚れない方がおかしい。もう何百回目になるか分からない、恋に落ちた顔を見せる私に、しのぶはやれやれと溜め息を吐いた。

***

「(名前さんの音、すっごく分かりやすいよなぁ…)炭治郎、お前名前さんにちょっかいかけるのやめろよな〜」
「そうだな。毎回良い反応してくれる名前さんが可愛くてつい」
「まぁ炭治郎の事だから無意識なんだろうけ……え?」