※色々と目を瞑ってください



『SEXしないと出られない部屋』

 そう扉にでかでかと書かれている文字。扉を前に、炭治郎と名前は頭を抱えていた。

 この状況になったのは半刻ほど前の事。任務を終えた炭治郎と名前が世間話をしていれば、いきなり光に包まれ、目を開けると四角い部屋の中にいた。部屋の中には1組の布団、水と食料、そして文字の書かれている扉。敵の血鬼術かと最初は警戒していたが、衣食住を与えられているこの状況。鬼が人間を喰らうためにこんなまどろっこしい事をする訳がないと結論付け、一旦落ち着いて考える事にした。

「炭治郎君、どう?」
「駄目ですね。他に出口らしい匂いはありません」
「やっぱり出口はこの扉以外には無さそうだね…」
「はい。しかもこの扉、凄く頑丈で簡単に開きそうにはないですね」

 炭治郎の嗅覚を駆使して出口を探したが、この扉以外に窓や隠し扉も無い。出入り口はこの扉だけなのだろう。あまり馴染みのない西洋式の扉。押しても引いても開かないそれは、完全に施錠されているようだった。

「やっぱり、しないと出られないって書いてありますし、この条件を満たさないと開かないんだと思います」
「う、うん、そうだよね……」

 名前の心臓がどきりと鳴る。何故自分たちをこんなところに閉じ込めたのか。首謀者も目的も皆目見当がつかない。
 だが、こちらに危害を与えるわけではないのは分かる。閉じ込めているこの状況で危害を与えられていないと言えるのかは微妙だが、殺す事だけが目的ならばさっさと殺しているだろう。ここで数日過ごす事が可能なように生活に必要なものは揃っている。
 だからと言って、このまま出ないという訳にもいかない。任務に支障が出てしまうし、炭治郎も私も家族や仲間が待っている。他の人が自分達がいない事に気付いてここを探し当ててくれればいいのだが、連絡する方法も無いし、自分達でさえどうやってここに来たか全く分からないのに他の人が簡単に探し当てれるとも思えない。

「(だ、だからと言って……!)」

 恋人でもない男性とそういう行為をするのはどうなのだろうか。炭治郎の事が嫌いなわけではない。相手に嫌々そういう事をさせるのが申し訳ないだけだ。だが、それ以外に外に出る方法が無いのならば仕方がないだろう。そう、仕方ないのだ。決して、断じて、ほんの少しだけ、炭治郎で良かったなど、思っていない。あくまでも脱出するためなのだ、と名前は拳を握り締める。

「名前さん、でもこれ……」
「わ、分かってる!で、でもやらないと出られないんだし、私は、炭治郎君がよければ……!」

 覚悟を決めて炭治郎に向き合う。顔が尋常ではないくらいに赤くなっているのが自分でも分かるが、自分だって一人の"をとめ"なのだから許してほしい。覚悟を決めた強張った表情の名前とは対照的に、炭次郎はぽけぽけとした顔で文字を指差す。

「これ、何て読むんですかね?」

 ……炭治郎は英語が読めなかった!

 英語3文字を前に首を傾げる炭治郎。女学校に通っていたので、それなりに英語が分かる名前は頬に汗が伝うのを感じた。この単語の意味も勿論知っている。あまりにも率直なその単語。名前は花も恥じらう乙女、と言えるような嫋やかな女性ではないとはいえ、流石にこのような言葉を自分から言うのは憚られる。

「……もしかしたら、暗号とかかも、しれないね……」
「あ、名前さんもそう思います?」

 この純朴な少年にどう伝えよう。そもそも、彼は性行そのものを理解しているのだろうか。……まさか行為自体を教えないといけなくなったりするのか!?と、顔を赤くしたり青くしたりする名前を余所に、炭治郎はその英語3文字をじいっと眺める。

「あ!分かりました!」
「!」

 ま、まさか。気付いてしまったのか。布団が1組。若き男女が閉じ込められていればする事は限られているだろう。英語が分からなくても察してしまったのかもしれない。これはしょうがない事なのだ。非常事態なのだから、決して不純な事ではない。先輩として私がリードしなければ……と、意を決した名前を近くに呼び、炭治郎は"X"の文字を指差す。

「ほら、ここのところ刀が交差してるように見えませんか?刀で戦えって事ですよ!」
「た、炭次郎君が嫌なら無理には……!……って、え?」
「幸い任務の終わりでお互い刀も持っていますし!是非手合わせよろしくお願いします!」
「……え、え?暗号?刀?これが?」
「はい!」

 名推理だと言わんばかりに瞳を輝かせる炭次郎。名前はそんな彼に何も言う事が出来ず、2人は手合わせをしていい汗を流した。その時の衝撃で扉は壊れ、無事に2人は外に脱出する事が出来た。何なんだ。こんな簡単に壊れるのか。閉じ込めるならもう少し頑丈に作っておけよ、と心の中で思わずツッコミを入れる。
 どうなるかと思いましたが、出れてよかったですね!と純粋無垢な子供のような顔で笑う炭治郎。名前はそうだね、と言いながらも、少し、ほんの少しだけ残念がったのは秘密である。