空も仄暗い早朝からせっせとお味噌汁を作り終えた私は、今日も今日とて、庭仕事。まあ、信用もできず非力で文字すら読めない無能な天女様にできる仕事といえばそれくらいしかないのだから何も文句は言えないのだけど。
「(やばい。やることがなさすぎてどんどん卑屈な性格に・・・)」
思わず止めてしまった動きをそのままに、箒を胸に抱えるようにして大きく一度深呼吸。悔しいことにこの世界は、空気だけが澄んだように美しい。いや、空気だけじゃないか。ぼうっと見渡した庭に燦燦と太陽の光が注ぎ、風は優しく頬を撫でていく。時代が違えど、見ている景色はさほど変わらないもののはずなのに。この世界は美しくて。
「・・・、様。天女様、!」
ふと、聞こえたどこか焦ったような声に引き戻され視線を下に落とす。そこいたのは全身泥だらけで鋤を肩に担ぎ、穴から顔を覗かせる紫。確か、名前は
「え、っと・・・綾部君。どうかした、?」
「・・・いえ、僕が穴を掘っているとこで立ち止まってぼーっとしてらしたので、どうしたのかな、と思いまして。」
いい歳した大人の女が真昼間から何も言わずに天を見上げて突っ立てることによほど驚いたのだろう。いつもより呆けた顔で尋ねてくる彼に思わずふっと息を漏らしてしまう。心配してくれたのかな。目の奥の憎悪が薄い気がする。
顔にまで土埃を付けた幼い顔が、今までうけもった子どもたちに重なって見えた、なんて。
「ごめんね、ちょっとだけぼうっとしちゃった。」
「・・・お疲れなんですか?」
「ううん、大丈夫。ありがとう。」
箒を地面に置き、膝をつきながら着物の懐をごそごそ。あ、良かった。ちゃんと持ってた。取り出したそれを何とはなしに添え、少年の頬についた土を少し落としてしてから気づく、微かな彼の震え。
ああ、私はなんて酷いことを。
悟られないように、これ以上傷つけてしまわないように、ゆっくりと立ち上がり少年からそっと離れる。
「・・・ごめんね、やっぱり疲れちゃったみたい。少し、休んでこようかな。」
「、はい。お気をつけて。」
少年が穴から出てこないのをいいことに、さっとその場を立ち去る。あくまで自然に、何にも気付いていないかのような足取りで。どくどくと速まる動悸にぎゅっと胸元を握りしめながら、学び舎とは離れた場所にある自分の母屋の近くまできてようやく足を止める。先程の少年の顔が、ハンカチ越しに伝わった僅かな震えが忘れられない。だめ、失敗した。あれは、あの表情は・・・
胸を締め付けるような痛みに耐え切れず、顔を両手で覆いながらしゃがみこんでしまう。これが、私の抱くべき感情ではないことくらい分かっている。