凹ませたかった、わけじゃない


Red Geranium


「俺たちはさっきから何をやってるんだ」
「あー・・・何やってんだろうな・・・」

久々の休日、俺とイザークは
雑貨店の前で道路脇の柵に腰掛け
ショーウィンドウ越しに中を見ている。

中を、というより
厳密にはユイとニコルを眺めている
と言った方が正しい。

元々はこの間部屋を荒らしたお詫びに、と
イザークから買い物に誘われたのだが
(そんな正直なセリフじゃなかったけど
 要はそういうことだったらしい)
途中見慣れた後ろ姿を見つけ、追いかけた結果がこれである。

二人の様子は恋人、というよりも
どちらかというと女友達との買い物、という方がしっくりとくる。

「ニコルのやつ、よくも女の買い物に付き合えるもんだな。しかも雑貨店」

隣のイザークが呆れた声を出す。

でもそれを言われると、正直俺もつらい。
今までユイの買い物には散々付き合ってきたのだ。
もちろん荷物持ちとしてではあるけれど。

ユイから
今日はニコルと買い物に行ってくる
と聞かされたのは朝食の時間。

あぁそう、と適当に返事をし深くは聞かなかったが
まさか同じ場所にきていたとは。

まさかも何も
アカデミーから一番近いショッピングモールはここだから
当然っちゃ当然か・・・

特にどうしようというわけではないのだけれど
思わず追いかけてしまった、というわけである。

「で、どうするんだ」

声をかけるのか?
とイザークが問う。

正直声をかけたところで
イザークとニコルが仲良く一緒に休日を過ごす姿なんか想像できない。

それに特に用事があるわけでもないのだ。

どうしようかと頭をかいていると
「この間のラスティの件だが・・」
イザークが声のトーンを落とした。

「ラスティ?」
「スキンシップがどうこう、の話だ。」

あぁ、あれね。

続きを待っていると
イザークの目が真っすぐこちらを向いた。

「極端過ぎる。」
「はい?」
「おまえはあいつを守りたくてそうしたんだろうが
 それであいつが凹んでるようじゃ意味ないだろう。」

ほんとこいつの目力といったら。
怒ってるつもりがなくてもそう見えるのだから
もうちょっと優しい顔してくれりゃいいのに。

「やっぱりあいつ、凹んでる?」
「俺がわかるぐらいだからな。」
「そう・・だよな」

正直もう加減がわからない。
どこまでならよくて
何がだめなのか。

幼馴染ってめんどくせェ・・・・。

「・・・いいんじゃないか、俺たちだけのときは。」

イザークの声のボリュームが
一段と下がった。

え、いいの?
予想していなかった言葉に、一瞬呆ける。

元来、優しい言葉をかけるのが苦手なのだ
この友人は。

その友人が、いいと言ってくれるのなら
甘えてみるのも、ありかもしれない。

「さんきゅ」

俺の返事に、イザークはほんの少しだけ
口元を緩めた。




「で、この状況はどうする気だ。」

声をかける気がないのなら
そろそろ俺たちもこの場を去ろうかと
店内に目を向けると

バチッと、ユイと目が合ってしまった。

「あ」

ユイがニコルに何かをいい、こちらを指さす。
ニコルの視線も指先を追い、またもやバチッと目が合った。

ユイの口元が
そこで待ってて、と告げる。
(ように見えただけだけど、きっとそう。)

「悪いイザーク、合流するっぽい」

またこのルームメイトの機嫌を悪くしてしまうかもしれない
と心配したのも束の間

「・・・かまわん」

意外な返事。
嫌がるかと思ったけれど、そうでもないらしい。

今日は一体どうしたのかと、そろそろ心配してもいい頃かもしれない。

俺のそんな内心を察したのか
イザークがむっとしたのがわかった。

「奇遇だねー!二人で何してるの?」

タイミングよく、ユイとニコルが店から顔を出す。
買い物がよほど楽しかったのか
ユイはにこにこと晴れやかな顔をしていた。

「俺たちも買い物にな。
 予定外にここで足止めを食ってるが。」
「足止め?」

ユイの頭の上に”?”が浮かぶ。

「いや、気にするな。」
「気になるよ!!」

ユイが食い下がるが、イザークは答えてやる気はないらしい。
ユイのほおが膨らんだ。

ほんと、変わらないな、昔から。

「二人はもうお昼ご飯食べました?
 僕たち今からなんです。」

グー・・・と
タイミングよく腹の虫が鳴く。

「まだ、みたいですね。」

ニコルがクスクスと笑った。

「一緒に行くのならちょうどいい店がある。
 前から行ってみたいとは思っていたんだが
 ディアッカと二人で行くのもどうかと思っていたところだ。」

イザークが気になっていた店なのだから
きっとオシャレな店に違いない。

確かにそんなオシャレな店に男二人はちょっと・・・な。

怪しい関係に見られかねない。

「じゃぁそこにしましょうか。どっちですか?」

ニコルとイザークが並んで前を歩き始めた。

写真でも撮っておこうか。
二人の並んで歩く姿は滅多に見れるもんじゃない。

『カシャ』

隣を見ると、ユイが携帯カメラを前の二人に向けていた。
「やっぱ撮りたくなるよな。」
「そりゃそうでしょ。」
「おまえたち、何をやっている!!
 置いていくぞ!!」

イザークの怒鳴り声に
俺たちは顔を合わせて笑った。


2019.04.28



- 9 -

*前次#