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昔は手に取るようになんでもわかったユイの気持ち。

わからなくなったのは、いつからだったか。



Red Geranium



ニコルとユイの婚約は、数か月経つ頃にはアカデミー生みんなの知るところとなっていた。

どうやらあの会場に、オペレーター志望の女の子が紛れていたらしく
その話は伝わるうちにどんどん尾ひれをつけ、いつの間にか来年にでも結婚するらしい
とそこまで話は膨れ上がっていた。

「私たち、来年結婚するらしいよ。」
「それは大変ですね。来年、というとアカデミーを卒業してすぐですから、そろそろ準備を始めないと間に合いません。」

この二人はこの二人で
のほほんとこの調子だし・・・。

「おまえたち二人とも、もっと真剣に考えろよ。」
アスランが至極全うな意見を述べる。

いけ、もっと言ってやれ。
あいつはもう俺の言うことなんか聞きゃしねぇ。

「アスランが真面目すぎるんだよー。はげるよ。」
「はげ・・・っ!あー、もう!」

だめだ、アスランが脱落した。
ぽんぽん、とアスランの肩をたたくと
今は慰めるところじゃない、と怒られた。

そんな俺たちをくすくすと笑いながら眺めていたニコルが、口を開く。
「周りの言うことなんて気にしなくていいですよ。
 僕たちは、何も変わりませんから。」

ニコルの言葉にユイもうなづいた。

実際、この数か月何も変わっていないようには見えた。
二人が恋人らしい行動をしていることもない。

正式な婚約者というわけでもないし
まして恋人になったわけでもないのだから、当然っちゃ当然か・・・。

ただ、周りの連中が騒いでいるだけだ。

「気にしないで、ねっ。」

ねっ、ておまえはほんと・・・。

アスランより先に俺がはげそう・・・。
「痛っ!」
ムカつくから、俺はユイにでこぴんをくらわせた。

痛そうにおでこを抑え、ユイがこちらをにらみつけるが、何も怖くない。

「あ、そうそう。
 この間の休みにうちに寄ったとき、母から写真を渡されたんです。」

ごそごそとニコルが鞄をあさる。

あさる、と言っても俺とは違ってニコルの鞄の中は整理され、無駄な物なんて入っていない。
お目当て写真はあっという間に机のうえに出された。

「綺麗に撮れてるな。」

並べられたのは、ステージで歌うユイの写真。

後から聞いた話だと、ユイはそうとう緊張していたらしいが、写真からはそんな様子は伺えない。
凛とした横顔は、ザフトに入ると決めたあの日の姿を思い出させた。

「へー、意外だな。こんなパステルカラーのドレス着たんだ。」

当日一人来れなかったラスティが、写真を手に取る。
「意外か?似合っているが。」

イザークもラスティの手に取った写真を覗き込んだ。

似合っている、似合っていないじゃなく
俺も意外に思っていた。
パステルカラーは、俺の中のイメージにはない。

「だって、それしか紫がなかったんだもん。」

ユイが唇を尖らせる。

「紫がよかったのか?」

あぁ、そうか、と違和感の正体に納得する。
初めてのダンスパーティーも
一度だけ出場した歌の大会でも
ユイのドレスは黒に近いような紫だった。

大人ぶったその色をバカにしたこともあったっけ。

「紫は、ここぞってときの私の勝負服の色だから。」
「なんで紫。」

もっとあるだろう、赤とか、黄色とか
とアスランがもっともな意見を述べる。

勝負ごとと言えば赤、一般的にはそれが普通だ。
紫なんて聞いたことがない。

ユイは、うーん、と手を伸ばし机につっぷすと
ちらりと俺を見上げた。

「何だよ。」
「内緒」

そのままユイはそっぽを向いた。

ユイが机につっぷすと同時に落ちた写真を、ニコルが1枚ずつ拾っていく。
俺の足元にも、それは1枚落ちていた。

「ニコル、俺も1枚もらっていいか。
 親父たちにユイの様子、見せたいから。」
「かまいませんよ。」
「変なことに使わないでよね。」
「変なことってなんだよ。」

そっぽを向いたままのユイから、返事はなかった。





2019.05.05



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