13
降下するシャトルの中で、今から降り立つ地球を見下ろす。
綺麗な青だな。
ふと掠める不安に
軍服の下、ディアッカにもらったネックレスの飾りをそっと押さえる。
ディアッカの髪と同じ、ゴールドのネックレス。
ディアッカが傍で見守ってくれているような、そんな気がした。
Red Geranium
「本日より配属になりました、ユイ・グローバルです。」
「お、君がそうか。」
レセップス艦内についた私は、隊長であるアンドリュー・バルトフェルドの部屋を訪れていた。
立ち込めるコーヒーの香りに少しくらっとするものの、敬礼を崩さないよう姿勢を正す。
「ふむ、なるほど。」
「隊長・・・?」
バルトフェルド隊長が、私の周りをぐるりと回る。
「だいたいはデータのイメージ通りだが、こんな可愛い子だとは予想外だったな。ハリスも教えてくれればよいものを。」
「ハリス教官・・ですか?」
突如発せられた見知った名前。
思わず聞き返すと、隊長はきょとんとした顔をした。
「あれ?聞いてない?ハリスが君のシュミレーションデータを送ってくれたんだ。」
「・・・あぁ!!」
いつだったか、ニコルやアスランと自主練中の記憶がよみがえる。
たしかハリス教官がデータを見せたい人がいる、と言っていたっけ。
それがまさかバルトフェルド隊長だったなんて。
「他にもいろいろデータを見せてもらった。いろいろと。」
「あはは・・・」
「ははは。」
いろいろ、って・・なんだろうか。
ハリス教かーーーん・・・
「まぁよろしく頼むよ。今日はもう陽もくれる。ゆっくり休んでくれ。」
「はい。」
ぽんぽん、と肩に置かれた手は、大きくて温かかった。
自由にしていていい、と言われたものの、少ない荷物を解いてしまえばもうすることもない。
「外、出てみようかな。」
地球の夜は、どんなふうだろう。
たしかニコルが”夕焼け”が綺麗なはずだ、と言っていたっけ。
『夕焼けがどんなだったか、次会うとき教えてくださいね。』
最後に会った時、ニコルは私にそう言って笑顔を見せた。
今頃ニコルとアスランもクルーゼ隊長に挨拶しているところだろうか。
イザークとディアッカは、一日ずらして、明日合流するらしい。
二人が一日ずらすことになったのは、きっとディアッカが私を見送るためだ。
『ずっと、つけてくれてんだな。』
『うん。』
シャトル入り口まで送ってくれたディアッカの手が、服の隙間から除いたネックレスのチェーンに触れた。
『なんかあったら、連絡してこいよ。』
『うん。』
『なんかなくても、連絡してこい。』
『うん。』
そんなに頻繁に、連絡が取れないことは、わかってる。
『ほら、泣くな。』
『・・・泣いてないもん』
溜まった涙がこぼれないよう、唇を噛みしめて耐える。
『・・ったく。』
呆れたように笑いながら、ディアッカの指が、こぼれる寸前の涙をぬぐった。
いつでも私を見守ってくれるディアッカの、この呆れたように笑う顔。
ずっと、好きだった。
仕方ねぇな、っていつでも私を守ってくれた。
『ユイ、こいつが俺の代わりにずっと近くにいるから』
『ディアッカ・・・』
ディアッカがネックレスのヘッドがあるであろう位置を、軽くノックする。
私の首元に置かれたままの握られた拳を、私は両手で包んだ。
『・・・行ってきます』
『おう。』
ディアッカが思い出すのが、いつでも笑顔であるように
私は精一杯の笑顔で手を振った。
「う・・わぁー・・・・・!!」
レセップスから外に出て、周りを見渡すと、空は綺麗な色に染まっていた。
「これが・・・地球の夕焼け・・・・」
まだ一日しか経っていないのに、もうすでにディアッカが恋しい。
ディアッカにも見せたいな
私の瞳と同じ赤と、ディアッカの瞳と同じ紫が混ざり合ったような
この綺麗な空。
「ディアッカ・・・・」
会いたい
口から出そうになった言葉を
私はぐっと飲み込んだ。
2019.05.25
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