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緊急速報を伝えるテレビのアラートが
何でもない毎日の終わりを告げた
Red Geranium
「ディアッカ、携帯鳴ってる」
カフェのテレビがニュースに切り替わると同時に
俺の携帯が鳴り始めた。
「親父?」
恐らく仕事中であろう、親父からの電話。
なかなか始まらない
この緊急速報のニュースと
なんか関わりでもあんのか?
「何?急用?」
携帯を耳にあて、親父の言葉を待つ。
電話の向こうが、ざわざわと騒がしい。
『・・アッカ・・・・ユニウ・・・が・・』
「なんだって?聞こえねぇよ。」
騒がしさに紛れて、親父の声が聞き取れない。
「ディアッカ、ディアッカ」
「ユイ、ちょっと待て」
聞き取ろうと反対の耳を塞ぐ俺の腕を
ユイが揺らす。
『ディアッカ・・えるか?ユニウスセブ・・・撃たれ・・』
「ん?さっきより、聞こえるけどまだ」
「ディアッカ!!」
さっきよりも強く、ユイが俺の腕を引く。
「だからちょっと待て・・って・・」
ユイの見開かれた目には
今にも零れ落ちそうな涙が溜まっていて
そのまま真っすぐにテレビを見つめている。
映っているのは、まばゆい光を放ちながら爆発するコロニー。
「・・んだよ、あれ。」
『ディ・・カ、・・スセブンに核が撃たれた!!
ユニウスセブンは、壊滅だ!!!』
「・・・・っ!!!!」
俺の腕を握るユイの手が
テレビを見つめたままのユイの手が
震えている。
「ユイ!今日ソフィアさんは!?」
「・・・・仕事で、ユニウスセブっ・・・」
「・・・っ・・・!!!」
言葉を詰まらせるユイの肩を引き
抱き寄せる。
そんな、まさか。
『今、ユイちゃんも一緒なのか!?』
「あぁ。隣にいる。」
『そうか・・・。どうやら核はナチュラルが放ったもののようだ。
私はしばらく家に帰れそうにない。』
「だろうな。」
俺の肩に顔を埋めているユイの息が荒い。
落ち着かせようと
抱き寄せた腕で、ユイの背をさする。
『また、連絡する』
電話が切れると同時に、ほかの客たちのざわめきが
耳に入り始めた。
『なんでこんな‥』
『ナチュラルどもめ』
『許せない』
「ディアッカ・・・、お母さん・・・」
「まだ、わからない。親父さんが心配してるだろ。
一度、うちに帰ろう。
ソフィアさんも、無事かもしれない。」
−ユニウスセブンは、壊滅だ!!!−
無事とは、思えない。
なんて、口にはできなかった。
『あそこには、お兄ちゃんがいるのにっ』
『これじゃ、きっと生存者は・・』
頼む
ユイに届かないでくれ、そんな言葉。
「ユイ、立てるか?」
「・・ん・・」
腕を引いてユイを立たせる。
震えてはいるものの、泣いてはいないようだ。
「行くぞ。」
俺はユイの手をとり、帰り道を急いだ。
いつもは温かいユイの手が
今は、冷たい。
なんで、こんなことが。
俺たちコーディネーターが一体何をしたってんだよ。
すれ違う町の人も
ある人は茫然とし、ある人は怒りに満ち
騒然としていた。
******
「ユイ!!ディアッカ君!!」
「お父さん・・・っ!!」
ユイを探していたのか
玄関の外に、エリックさんが見えた。
ユイの手が離れ、エリックさんの方へと走っていく。
「心配したよ、電話も繋がらないから。
ニュースは・・見たね?」
エリックさんは、俺とユイを交互に見つめた。
「お父さん、お母さん・・は・・・・?」
ユイの声が、かすれている。
聞きたくない。
聞かせたくない。
この先は。
「連絡が、つかないんだ。
ただ、わかっているのは
ユニウスセブンが壊滅した、ということ・・・。」
黙ったままのユイを
エリックさんは静かに抱き寄せた。
そのまま、深く息を繰り返す。
「ユイ、私は今から研究所に向かわなくてはいけない。」
「今ですか!?こんなときに!?」
「こんなときだからだよ、ディアッカ君。」
ユイを抱きしめたまま、エリックさんが
まっすぐに俺を見つめる。
「放っておけば、ナチュラルはここにも核を落とすかもしれないんだ。
そうなればみんな死ぬ。君も。私も。ユイも。」
エリックさんの腕の中で、ユイの肩がびくりとはねた。
「もう核を使わせないために、できることをやらないと。」
エリックさんが悲しく笑う。
最愛の妻の生死がわからないこの状況で
なんで、この人はこんなにもつよいんだろう。
「今やらなきゃ、なんのために科学者になったのか
わからないしね。」
エリックさんは名残惜し気にユイを包んでいた腕を開放した。
もう研究所に向かう準備はできているようだ。
さっきは気づかなかったが
すでにエリックさんは、出かけるための装いだった。
「ディアッカ君。
ユイを、頼めるかな。そばにいてやってほしい。」
「そのつもりです。」
「ありがとう。」
じゃぁ、行ってくる
言い終わると同時に
エリックさんは走り出した。
「ユイ、中に入ろう。」
黙ったままのユイの手を引き
通いなれたグローバル家の扉を通って
そのまま、2階のユイの部屋へと向かう。
−ディアッカ君、いらっしゃい−
いつもなら聞こえるはずの、ソフィアさんの声が
今日は聞こえない。
きっともう
聞ける日はこない。
「・・ユイ・・?」
ベッドの前まで辿り着く。
と
ユイはそのままぺたりと床に座り込んだ。
「大丈夫・・・なわけねぇか・・・」
−ぽたり−
「ユイ・・・」
「ごめ・・っ・・」
ユイの瞳から涙がこぼれて
座り込んだユイのスカートに濃い染みを作っていく。
「おかあさ・・・」
誰もはっきりとは言わない。
でも、あの状況で
生存者がいるとは、思えなかった。
エリックさんも、ユイも
俺だって、もうわかってる。
「ディアッカぁ・・・っ・・」
ずっと一緒にいる大切な幼馴染に
下手な慰めなんてできなくて
かけてやれる言葉なんか何も思いつかなくて
俺はただ
ユイを抱きしめることしか出来なかった。
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