泣いて泣いて泣いて

目が覚めると私はディアッカの腕の中にいた。


Red Geranium


後に血のバレンタインと呼ばれることになったその日
あまりにも多過ぎる人々が
一瞬にして命を奪われた。

どうしてコーディネーターであるというだけで
こんな仕打ちを受けなければならないのか、と

プラント中が
怒りと悲しみに湧いていた。

そんな中で
私が冷静でいられたのは

何度もめげそうになる私の隣に、ずっと立ち続けてくれた
幼馴染のおかげにちがいない。



「ねぇ、ディアッカ。私、考えたの」

追悼式の終わった夜
遺影として使ったお母さんの写真を
リビングのチェストの上に並べる。

ソファに沈んでいたディアッカは
私の話を聞くため、起き上がり、座りなおした。

「お父さんは、今この瞬間も
 守るために戦ってる。」

核をもう打たせないよう
Nジャマーの開発のため
あの日からずっと、ほとんど家にいない。

着替えて、シャワーを浴びて
仮眠をとる程度だから
いつ家に帰ってきてるのか、よくわからない。

数日ぶりに追悼式で真正面から見た顔には
当然のごとく、疲れが滲んでいた。


お父さんは、泣けたんだろうか。
ちゃんと。


疲れは見て取れたけれど
それでも悲しみを抱えながらも
戦い続けているお父さんの強い意志を持つ目は
娘として、誇らしい。

だから

「私も、戦おうと思う。」

私も両親にとって、誇れる娘でありたい。

「言うと思った」

ディアッカはそう言うと、小さく笑った。

「おまえがザフトに入るってんなら、俺もそのつもりだ。」

ディアッカが右手を差し出す。

軍人になる。
今までの平和な日常から
戦火へ飛び込むということ。

平和な日常自体は
すでに、壊されていのだけれど。
軍人になるというのは
また別の話であって。

不安や恐れがないわけじゃない。
悲しみもまだ癒えたわけではないけれど

それでもあなたも一緒にいてくれるなら

それは
どんなに、心強いだろう。

「ありがとう」

私が手を重ねると
ディアッカはそれをつよく握った。

小さな頃から何度も触れてきた
私とそんなに変わらなかったはずのその手が

今はすごく頼もしい。

「ディアッカも来てくれるなら、お父さんも安心するね」
「まぁおまえが行くって言わなくても、俺もそのつもりだったしな。」

がんばろう、大切なものを守れるように。

もう、失わないために。

泣いてばかりいるのは
今日でおしまい。

私、がんばるから。

お母さんの写真に
そう誓った。



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