「こんなに軍人ぽくない人もいるんだな、と思って」

私がそういうと

「あなたがそれ、言います?」

とニコルは笑った


Red Geranium


アカデミーに入って3か月が過ぎた。

「ユイ!ユイ!聞いてます?」

ニコルが私の目の前で手をひらひらとさせる。

「あぁ、ごめんごめん。
 あまりの成績の悪さにちょっと・・・。」

教官から手渡されたスコア表には
燦燦たる結果が記されている。

「うわー、おまえそのまま戦場でたら死ぬんじゃね?」
「ちょっと!ディアッカ!返して!!」

さっと頭の上からスコア表を取り上げられる。
懸命に手を伸ばしてみるものの
背だけどんどん大きくなってしまったディアッカには届かない。

「情報と爆弾処理は俺とそんなにかわんないのか・・・
 MSには乗らない方がいいかもな。
 つかどうやったらこんな点数とれんだよ。」
「撃墜機0・・・悲惨だな」
「イザークまで・・・!!」

まぁまぁとアスランが困った顔で間に入ってくる。

「でもまぁ、確かにこのままじゃまずいな。
 オペレーター志望ならともかく
 ユイはパイロット志望だろ?」

ぐぬぬ・・・・と下を向くしかない。

「自主練・・頑張ります・・・。」
「僕も付き合いますよ!」

ニコルの笑顔がまぶしい。
1つ年下のニコルはいつでもほんとに可愛い。

「ニコルー、ありがとう」
「じゃぁ早速今日から始めましょうね。」
「う・・・」

じつは鬼だったりするけれど。


アカデミーは女の子の人数が極端に少なく
いてもオペレーター希望だったりで
私は友達づくりに出遅れてしまった。
そのせいで
入学後もなお、ディアッカにべったりの状態だ。

自然とディアッカと同室のイザークとも話すようになり
そのイザークが闘志を燃やす(本人は認めないだろうけど)
アスランとも話すようになり
アスランと仲の良いニコルやラスティとも話すようになり・・・

結果的に総合成績ハイスコアの集団に囲まれることになった。

私の成績だって、そう悪くはないのだ。
撃墜機0の成績だって
こちらが落とされているわけでもない。
と言ったところで
きっとイザークには 腰抜け と一掃されるのだろうけれど。

「あれ、そういえばラスティは?」

アスランがきょろきょろとあたりを見回す。
確かに、このメンバーがそろっていてラスティだけいないのは違和感。

「あぁ、なんかオペレーター志望の子に呼び出されたそうですよ。」
「呼び出し?」

ニコルの言葉に、アスラン一人が首をかしげる。

「ラスティもラスティだが、呼び出す女も呼び出す女だ。
 なんのためにアカデミーにきたというんだ」
「まぁまぁ」

眉を寄せるイザークをディアッカがなだめる。
彼が不機嫌になってとばっちりを受けるのはごめんだ。

「じゃぁ・・・!またあとでね!」
「あ!おまえら!」

薄情者、と叫ぶディアッカを無視し
私、アスラン、ニコルはそそくさとその場を退散した。




次の訓練まではまだ少し時間がある

私たちは訓練場近くのベンチに腰を下ろした。

「さっきのラスティの件ですけど」

ニコルが口を開く。

「こんなときだから、なおさらなのかな、って僕は思うんですよね。」
「こんなときだから?」

ニコルがこちらを向いてうなづく。

「いつ会えなくなるか、わからないから。
 伝えたい思いがあるなら、伝えないと、って」

会えなくなる、なんてことが起こらないように
もちろん、精いっぱい訓練するんですけどね!
とニコルが続ける。

「アスランは・・どうですか?
 ラクス・クラインとの時間、とれてます?」
「俺?」

急に話をふられ、アスランが驚いた顔をする。

「そうだよそうだよ。
 あんな可愛くて、優しい婚約者なんだから
 大事にしないと!!」

あのラクス・クラインの婚約者がアスランと知ったときは
それはそれはもう驚いたのなんのって。
なんたって私はラクス様の大ファンで
CDも全部あるのだから。

「いや、まぁ・・・そうだな・・・・。
 わかってはいるのだけど・・なかなか・・」

アスランは困ったように頭の後ろをかいた。

「婚約者といっても
 親同士が決めたもので、俺たちの気持ちは二の次というか・・・」
「アスランはラクス様のこと好きじゃないってこと?」
「いや、好きじゃないわけではないんだ、決して。
 ただそれが恋なのか、と聞かれたら・・正直わからない。」

そういう、もんなのか。
こんなに世間に婚約者として認められていたとしても。

「そういうユイは?ディアッカとどうなんだ?」
「へ?ディアッカ?」
「僕もそれ、気になってました。」

二人の話によると
私たちは入学当初、恋人同士と思われていたそうだ。

確かに、遅れ気味の私の手をディアッカが引いたり
私がディアッカに腕を絡めたりといった場面は多々あるけれども・・・

「昔から、ずっとこうだったから
 特に深い意味はないというか・・・・。」

私にとってのディアッカは
ディアッカでしかなくて
なんというか・・・
いなくなったら困るけど・・・
でも・・

「本にでてくるような
 一緒にいてドキドキしたりするのが恋なんだとしたら
 ディアッカへの気持ちは恋じゃないよ。」

そう、そうなのだ。

「私の話はこれでおわりっ!
 もうそろそろいかないと!」
「あ、ほんとだ。そろそろやばいですね!急ぎましょう!」

目の前に差し出されたニコルの手を
私は自然ととり立ち上がった。





2019.04.07






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