知らないうちに

俺たちは子供じゃなくなっていた


Red Geranium


「ディアッカ、あれいいの?」

告ってきた女の子が可愛かっただの
でも付き合うつもりはない、だの
くだらない話で盛り上がりながら
次の訓練場へ向かう途中
ラスティがふと足を止めた。

「あ?」

ラスティの視線の先にはニコルに手を引かれ、立ち上がるユイの姿。
ニコルはその手をつないだまま、前に進み始める。

グローバル家がスキンシップの多い家なのは知ってる。
ユイが俺に対してべったりなのも昔からだし
あぁやってニコルと手をつないだままなのも
きっとそれが影響してる

んだろうけど

・・んだよ、あれ。

ちょっと気に食わない、なんて思うのは
幼馴染の定位置を奪われた、みたいな
幼稚な独占欲だろうか。

「べつに、俺が口出しすることじゃないだろ。」

自分でも整理のつかない気持ちが
言葉とそろわない。

でも、その言葉通りだ。

俺が口出しすることじゃない。
だって俺は、ユイの恋人でもなんでもない。

「あ、そう。ディアッカがいいならいいんだけど。」

いや、いいか、だめかでいうなら・・・

・・・だぁぁぁっもう・・っ

「俺とユイはなんでもねぇよ。」

内心を悟られたくなくて
平常心を装う。

「てゆかディアッカ以外ともつないじゃうなら
 俺も握ってみようかなー、ユイちゃんの手。
 ユイちゃん、かわいいよねー」
「ラスティ、おまえいい加減にしろ。
 一体何しにここにきてるんだ!」
「おー、こわ。」

俺の心中を知ってか知らずか
咎めるイザークにラスティは大げさに肩をすくめて見せた。

「でもさ、俺の冗談はともかくとして
 いわゆるお年頃の男たちの中に紅一点。
 おまえとだけならともかく
 ニコルとまであの調子じゃ
 周りはどう思うんだろうな。」

軽く見られちゃうかもね

と告げるラスティに、イザークがうんざりとした目を向ける。

「また、おまえはそういうことを・・・」
「みんながみんな、イザークみたいに真面目人間じゃないってこと。」

確かに、ラスティの言う通りだ。

ユイが自分の幼馴染じゃなくて
他のやつらと誰彼構わず手をつないだりしてたら?

やらしてくんねーかなー、とか
そんなクソみたいなこと
俺だって思ってたかもしれない。

「あいつに、一度話をすべきかもしれないな。」
「そう・・・だな。」

ラスティの言葉に
イザークも思うところがあったらしい。
自分がユイを軽く見ているかどうかは
当然別として、だ。


ふとまわりを見渡せば
ユイの方を見ながら
にやにやと小声で話している男どもの姿。

当の本人は気づきもせず
変わらずニコルに手を引かれている。


もうほんとあのバカ!

でもユイが軽く見られた原因は
俺にもある・・・か

今更ながら
もうそういう年齢なのだ、と自覚する。

昔のままでは、いられない。

「あ、ディアッカ!」

俺の視線に気づいたらしい。
ユイが能天気な笑顔をこちらに向けた。

ニコルから手を放すと
ユイはそのままこちらに向かって近づいてきた。

悩んでるの俺だけかよ。
・・・俺だけなんだろうけど。

タイミングよく集合の号令がかかる。
俺はユイを待たずに足を進めた。

「待たなくていいのか?」
ユイを気にしたイザークが後ろを振り返る。

「あいつが軽く見られるのは気分がわりぃ」

ラスティに悪気がないのはわかってる。
ただ、そう見られてしまうのだ、と
気付かされてしまった。

このままじゃ、いられない。

「ディアッカ歩くの早いっ」

そういって俺たちにユイが追いつく。

そのままユイは
俺との距離が開かないよう腕をからめた。

まったく…
こういうとこだよな。

それでも
振りほどくことまでは
出来ない。

そんなことをしたら
ユイがどんな顔をするか
いやでもわかる。

「なんで待ってくれないの。」
ユイが口を尖らせる。

振りほどけないなら
言わなきゃいけない。

「ユイ、もうやめろ、そういうの。」
「そういうの、って?」

首をかしげるユイに
俺は絡まった腕を指さした。

「もう、こどもじゃないんだ。俺たち。」
「ディア…」
「俺は男なの。わかる?」

で、おまえは女だ。

ユイだって馬鹿じゃない。
俺の言葉の意味、伝わるだろ?

俺が、おまえの価値を下げる原因になっちゃいけないんだよ。

「そう…だね。」

何かを言いかけたユイは
言い切ることなく少し俯いた。

「わかっ…た。気を付ける。
 でも、なんか寂しいね」

絡められていたユイの腕が
するりと抜けた。

体温の余韻を残して
ユイの重みが、なくなる。

寂しいって・・・んな顔すんなよ。

「ディアッカ、それも、もうだめだよ。」

無意識のうちにユイの頭に乗せていた手を
ユイが下へとおろす。

「次の射撃訓練、頑張ろうね!」

ユイは笑ってそういうと
ニコル・アスランの方へ戻っていった。

「貴様は大馬鹿者だな」
イザークが隣でため息をつく。

「でもまぁ、これでいいんじゃない?」

これで、よかった

ラスティの言葉に
俺はうなづくことができなかった。





2019.04.11



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