本当は優秀なのにどこか頼りないところのあるユイと
それを見守るディアッカ。

二人を見ていると
遠く月にいるはずの自分の幼馴染のことを思いだした。


Red Geranium


「トップはザラ・アマルフィー・グローバルのチームだな。」
「やりましたね、ユイ!」

教官の言葉に、ニコルとユイが両手でハイタッチ。
さすがに俺はそんなキャラじゃなくて
片手だけでハイタッチを交わした。

視界の端では
2番になったことを悔しがるイザークと
それをなだめるディアッカ、ラスティの姿。

「アスランもニコルもほんとにすごいね!
 私が足引っ張ってても、トップになっちゃうんだもん!」

ユイの声が聞こえたのだろう
「・・・っ寮に戻るぞ!!」
イザークが、まさにドスドスと音を立てて
寮の方へと戻っていく。
ディアッカは小さくため息をつくとその後を追った。

これはまた、二人の部屋が荒れるな。
ディアッカに同情する。

助けに行こう、という気はさらさらないのだけれど。

「僕たちだけじゃないですよ。
 ユイのフォローがあってこそです!」
「私なんて全然だよ。」

射撃訓練のあと行われた
チーム単位での模擬テスト。

”敵の本部に侵入し、周りは敵だらけの状況で
中枢部まで辿り着く”
という想定だ。

「いや、ニコルの言うとおりだ。
 致命傷レベルのヒットはないにしても
 確実に相手の戦闘力を奪っていくから
 俺もニコルも攻めに集中できた。」
「そう?ならよかった。」

致命傷レベルのヒットがない分、スコア自体は稼げないが
それが実戦での足手まといにつながるかといえば
決してそうじゃない。

むしろサポート力は確かなもので
味方として、とても頼もしいのではないかと思う。

「この調子で、MS戦の自主練もパパっと終わらせちゃいましょうか。」
「う・・・」

一日の訓練がやっと終わった
と、開放感に満ちているユイに
容赦なく、ニコルが笑顔で告げる。

「そうだな。夕飯までに終わらせよう。」
「ちょ、ちょっとだけ休憩「だめです。」

ガクり、とユイがうなだれる。

”ちょっとだけ、ゲームしない?”

いつだったか、課題に追われた幼馴染が
そう言って逃げていたっけ。
あいつは今、どこで何してるんだろうな・・・・。

「ほら、行くぞ、ユイ」
「はーい」

ユイは休憩を諦め
素直に俺たちに従った。










「アスラン!アスラン、ちょっと!!」
MS戦のシュミレーターに向かっていたニコルが
慌てた様子で俺を呼ぶ。

「え?何?私何か変なことしてる!?」

画面から目を離さず、MS戦を継続したまま
ユイが不安な声を出す。

読みかけの本を閉じると
俺は後ろから画面をのぞき込んだ。

「アスラン、ユイのこの戦い方って・・・」
「・・・・・!!」

撃墜0機。
それは紛れもなく、0機なのだ。

しかし、驚くべきは的中率だ。

的中率98.8%

それもモニターのついている頭部や
腕、足などのコックピット以外の部分ばかり。

「ユイ、もしかして・・・・」
「なぜコックピットを狙わないんだ。」
「え?」

ユイがきょとんとした顔で画面から目を離しこちらを向いた。

ズドーン
という爆発音とともに、ユイの機体が落とされる。

「あぁぁぁああぁ。」

ユイは大きく肩を落とすと
アスランのせいだ、と愚痴をこぼした。

「なんでコックピットを狙わないのかって・・・
 だって、自機が落とされなければ問題ないでしょう?」
「いや、そうだが・・・」
「コックピットを撃ったら、間違いなく相手は死んじゃうよ。」

さも当然かのように、ユイは言い切った。

「そうですけど!でも!」

まさかの回答に、俺もニコルも次の言葉を紡ぐことができない。

もしかすると、射撃のスコアも同じなのではないだろうか。

いや、確かめなくてもわかる。
きっとそうなのだ。
ユイは、そういう子なのだ。

ニコルも同じことを思ったらしい。

「軍人に、向かないな。ユイは。」
「そうですね。」
「やっぱりだめかなぁ。私・・・。」

別の意味にとったのか、ユイがうぅ、とうなる。

「そういうわけじゃないですけど。」
「ほんと?」
「はい、ほんとです。」

ニコルの笑顔に安心したのか
ユイもやっと笑顔を見せた。

模擬テストのときも思った通りで
サポート役としては
とても頼りになる、と思う。

むしろ、殺さない、という選択肢を
意図的に選んでいるのであれば
潜在能力は俺なんかよりはるかに上だろう。

人を殺せない
そんな人が軍人に向いているかと聞かれれば
きっと答えはNO。

でも、要は適材適所。

ユイが殺せない、というのなら
サポートにまわるというのなら
俺が最前線に立つまでだ。

いつまでそれが許されるのか

そんなことはわからないけれど。

優しいユイが
そのままのユイでいられれば
と願う。

「ちょっとアスラン!それディアッカにだめって言われたところ!」

無意識のうちに
俺はユイの頭をぽんぽんと触っていたらしい。

「そうか。すまない。」

妹がいたら、こんなかんじだろうか。

ふと、そんなことを思った。





「お、自主練か?」
「「「教官!」」」

シュミレーションルームに入ってきたハリス教官に
俺たち3人は敬礼の姿勢をとる。

ハリス教官はアカデミー生の中でも
優しい、誠実、と評判がいい。

隊長クラスの人たちとも交流が盛んだと聞く。

「そう固くならなくていい。
 俺にも結果、見せてくれよ。」
「は、はい!」

ユイはシュミレーター前の席を教官に譲った。
どんな評価をされるのだろう
とそわそわと落ち着かないようだ。
本人は自分の能力に気づいていないのだから
仕方ない、か。


「・・・・ふーん・・そうか・・・。」

顎をさすりながら
教官はシュミレーターのリプレイと
スコアを確認していく。

「なるほどね。」
「教官・・?」

ユイだけが”?”を浮かべていたが
どうやら教官も、俺たちと同じ結論に達したようだった。

「このデータ、コピーしてもいいかな?
 見せたい人がいるんだ。」
「見せたい人、ですか?」
「うん。」

ニコニコと
教官は笑顔を見せたまま
それ以上を答える気はどうやらないらしい。

「わかりました。私がコピーして後で教官室へ届けます。」
「うん、頼んだよザラくん」

もうすぐ夕飯だし、ほどほどにね

そう言い残し
教官は部屋を出て行った。

「教官の言った通り
 夕飯の時間ですね。今日はここまでにしましょうか。」
「やったー!!」

ニコルの言葉に
ユイは今日一番の笑顔を見せた。





2019.04.18






- 7 -

*前次#