「……ユズリハは、」
「ん?」
ある日の昼食時、ミゲルは徐に口を開いた。
彼が釈放されてからひと月ほど。贖罪の為か今まで以上に身を粉にして働いているミゲルを受け入れ始める住人も増えてきたように思う。元々不誠実だったわけではないだろうけれど、ただ誠実に生きているこの人の姿を見て「信じてみてもいいのではないか」と考える人が出てきたのなら喜ばしい兆候だ。
ユズリハは最低でも週に一度、ミゲルを食事に誘うようにしていた。最初こそあまり乗り気ではなかったのか、それとも単純に遠慮していたのか、理由をつけて断られることもあったが今では断られることは滅多にない。ミゲルが忙しくてどうしても無理だというときに後日埋め合わせをしてくれるくらいだ。
「いや、こうして頻繁に食事に誘ってくれているが君には他にも友人がいるだろう? 私よりも彼らと食事を楽しみたいと思うこともあるのではないか」
「気にかけてくれてありがとう。もちろん、ミゲル以外の人たちと過ごす時間も大切にしているよ。昨日は仕事が終わってからニアと遊びに出かけていたし」
「それなら良いのだが……」
幼馴染のニアは故郷にいた頃も、彼女が正式にサンドロックの一員となってからもよく一緒に遊ぶ相手だった。
昨日はまだサンドロックの地理に慣れていないというニアに町の案内も兼ねて遊びに連れ出したところだ。役場の位置くらいは流石に覚えているという幼馴染に診療所や教会、民兵団など主要な施設を案内してまわり、ついでにゲームセンターで遊んで満足して帰宅した。
「それに私はミゲルと一緒に過ごしたいから誘ってるんだよ。毎日のように誘うのは流石に迷惑だろうし私にもビルダーの仕事の都合があるけど、時々一緒に食事をするくらいならいいかなぁって」
「……やはり君は変わっているな」
「そう?」
子供の頃から変わっていると言われることは時々あったけれど、少なくともユズリハにとっては普通だ。
「まあ、サンドロックに行くことになったときはこんなにいろんな事件に巻き込まれることになるとも、教会の牧師と食事をする仲になるとも思ってなかったけどね」
町の発展に貢献して、ある程度の仕事が済んだらまた別の町に行くのだろうとぼんやり考えていた。
サンドロックにはビルダーが複数いるし、ミアンも優秀なビルダーの一人だ。彼女になら安心して町を任せられる。
ビルダーとして死ぬまで何かを作っていたい、誰かの役に立っていたいと思っていたユズリハにとってひとつの町に留まるよりもビルダーを必要としている場所に出向いてそこで満足するまで物を作り、仕事が減ってきたら違う町へ移動する、そんな生活のほうが向いていると考えていた。
尤も、実際には過酷な環境であるサンドロックではビルダーが不要になるようなシーンもなく、今でもそれなりに大きな仕事が頻繁に舞い込んでくるのだが。
「……ユズリハ、改めてお礼が言いたかった」
ミゲルはふと、思い出したように言葉を紡ぐ。
「私はお礼を言われるようなことをしたつもりなんてないけど」
「君にとっては些細なことだったのかもしれないが、少なくともここにいる私は君のその些細な行動に救われたのだと思う」
「……私、学生時代はあんまり友達多くなくて。雰囲気が近寄りがたかったのかなぁ。寂しいと思うこともあったんだよね」
学生時代、ビルダーになるという夢を叶える為に直向きに走り続けていたユズリハの姿は恐らく周囲の人々には近寄りがたいものだった。
友達がいなかったわけではない。幼馴染のニアをはじめ、仲良くしてくれる人は当然いた。彼らが遊びに誘ってくれて、くだらないことをして笑い合った思い出もある。
ただ、あまり親しくない相手に自分から声をかけることはあっても、彼らのほうから声をかけてくれることは殆どなかったように思う。誰かから言伝を頼まれたとか、そのような用事で話しかけられることが何度かあったような気はするけれど。
「だからさ、どんな事情があってもミゲルを孤独にしたくなかったんだ。ずっとひとりぼっちだと良くないことばかり考えて余計に暗い気持ちになることもあるし」
「……ユズリハ」
「正直、もうこの町にはいないペンとヤンとももっと話しておけば良かったなって後悔も……ほんの少しだけある」
二人と話したからと言って何かが変わるのか分からないが、彼らのことを何も知らないまま——恐らくはもう一生会うこともないであろう関係になってしまったことに対する寂しさのようなものはある。
彼らのことを知ったところで罪はなかったことにはならないだろうしミゲルのように釈放されることもないかもしれない。そも、ミゲルが釈放されたのだって特例だ。だからこそ、そうなる前にもっと関わっておきたかったと思う。
「なんて、私のエゴでしかないんだけどね」
ミゲルと友達になりたいと願ったことも含めて。