サンドロックでは告白にハートの結び目を贈り、プロポーズには指輪を贈るらしい。
 どうやら告白やプロポーズの風習はどこも大きな違いはない、と気付いたのはサンドロックで生活を始めて半年ほど経った頃だ。アルビオから店で扱っている商品のひとつとしてハートの結び目を見せられた。もしかしたらユズリハにもいつか必要になる日が来るかもしれないだろう、と。
 その頃は結婚を前提とした付き合いなんて考えたこともなかったから店の商品を出来るだけ多く売りたいらしいアルビオの話を聞きながらも自分には一生無縁のものだろうと思っていた。
 確か故郷のハイウィンドでも告白やプロポーズの文化は似たようなものだったと記憶しているし、何度か一緒に仕事をしたことがあるアルバートにも参考までに一度聞いてみたことがあるけれどポルティアもサンドロックと殆ど変わらないと言っていたような気がする。流石にデュボス帝国でも同じような告白が行われているのかはユズリハには知る由もないが。
 尤も、告白なんて言葉だけでも成立してしまうものなのだからハートの結び目を贈らず言葉や態度で示す人もそこそこいるらしい。告白をすると決断してからしっかりと準備する人もいれば思い立ったらすぐに行動する人もいる、場合によっては告白しているつもりはないが結果的に告白のようなシチュエーションになることも——というのは経験がないユズリハにも分からないでもない。





「遠回しに言っても仕方ないから単刀直入に言うけど、ミゲルを私のものにしたい」
「………………は?」
「いや、これじゃミゲルのことをもの扱いしてるみたいで良くないかな……」

 明らかに困惑の色を浮かべるミゲルにユズリハはそう続けて、思案する。

「正確にはミゲルのことが好きだから、残りの人生を私と一緒に生きてほしい、かな」
「君の唐突な言動にも慣れてきたつもりだったが……」
「君が私のことをどう思ってくれているのかは分からないけど、私は君のことが好き。ただこの『好き』が一般的に恋と呼ばれるものであるかは自分でも分からないけど、君を誰よりも幸せにしたいと思ったのは本当」

 恋と呼べる感情なのか分からないが、愛と呼ばれるものではあると思う。
 ——最初はミゲルに苦手意識を抱いていた自分がまさかこの人と一緒に生きたいと思うようになるなんて。ユズリハは思わず苦笑する。

「ユズリハ、それはプロポーズだと誤解されかねない発言だ」
「プロポーズと受け取ってもらって構わないというか半分くらいそのつもりだけど」
「……は?」

 ミゲルはユズリハの予想外の返答に再び困惑した。
 ユズリハは「流石にお付き合いもまだなのにいきなり結婚ってのも世間体が悪いかなと思うから将来的な話だけどね、お見合い結婚とかじゃないし……」などと続ける。その表情はあまりにもいつも通りで、どのような感情で発言しているのか読み取ることは出来ない。

「…………君はこの町の住民たちから必要とされていて、誰からも好かれる存在だろう?」
「まあ、嫌われてはいないと思うけど……ビルダーとして町の発展に貢献してきたという自負もあるし」
「当然、中には君とそのような関係になりたいと思う相手もいる筈だ」

 それなのに何故、自分なのか——そう言いたげなミゲルにユズリハは小さく息を吐いた。
 他の人がそのように思ってくれているのだとしたら幸せなことだ。彼、或いは彼女と一緒に生きる世界線もあるのかもしれない。だが、今ここにいるユズリハはミゲル以外と人生を共にするなど、考えたこともなかった。
 ……どうしてミゲルなのか、と言われたらこの人のことを知るうちに好きになってしまったからとしか言いようがない。

「私がミゲルがいいと思ったんだよ。もちろんミゲルの気持ちが一番大事だし、無理強いするつもりはないけど」

 妥協でもないし、気紛れを起こしたわけでもない。

「……私が住民から嫌われていることは理解しているし、それは受け入れている」
「うん」
「だが私のせいで君まで悪く言われるようになるのは許容できない」
「この町の人はミゲルと仲良くしてるだけで他人を嫌いになるようなタイプじゃないと思うし、私としてはミゲルが嫌われるのも複雑なんだけどな」

 ミゲル自身がその境遇を当然のものとして受け入れているのならあまり口出しするのも良くないのでは、とも思ったがユズリハにしてみれば自分の好きな相手が嫌われて孤立するような状況を受け入れたくはない。
 ……尤も、ミゲルが誤解されて嫌われがちな理由はユズリハにも分かる。自分だって元々はミゲルのことを誤解していたし、勝手に苦手意識を抱いて避けていたのだ。
 彼は感情表現が豊かなほうではないし、町の為に厳しい指摘をすることもある。教会の牧師、なんて役職の人間はそれだけで近寄りがたいと感じてしまう人もいるだろう。かつてこの町の司祭だったマチルダのように穏やかで優しく、表情も柔らかい人であれば別なのだろうけれど。

「ミゲルのことを嫌う人にもいつか君の良さを知ってもらいたいと思ってるし、君と仲良くするだけで私のことまで悪く言うような人とは最初から関わっていないつもりだよ」

 自分に人を見る目がある……とは思わないけれど、理由もなく他人の人間関係に口出しするような友人や知人に心当たりはない。
 これがもし収容されて釈放されていないミゲルであれば幼馴染が心配して何か言ってきたかもしれないが、既にミゲルが釈放されてそれなりの時間が経過している。
 もちろんまだ完全に受け入れられているとは思わないし、本当に信用してもいいのか判断しかねている人も多いだろう。それでも釈放されて以降、一度も罪を犯していない——それどころか誰よりも町の為に、或いは教会の為に身を粉にして仕事をこなしているミゲルを表立って批判するような人もいない。況してやミゲルと特別仲良くしているだけの他人を悪く言うなど、あり得ないと断言できる。

「それに、大事なのは君とそういう関係になることで私が他人からどう思われるかではなく、君が私のことをどう思っているかだよ。自惚れかもしれないけど、個人的には嫌われてはいないと思ってるんだけど」
「…………それは、」
「私だって君にこんなことを伝えて嫌われないか、拒絶されないか——そんな不安はあるけど、それでも君がいいって心から思えたから」

 この選択が自分たちの関係に善いものなのかは分からないけれど。

「私は少なからず君のことを尊敬しているし、好ましく思っている。君が恐らくは心から私のことを想ってくれていることも分かる」
「……ミゲル」
「君が望んでくれるのなら、私も……君と一緒に生きていきたいと、そう思う」

 一言、それだけ告げて。ただ手を取って光のほうへと歩いていければいい。