「ミゲル、うちの両親に会う気はない?」
「ご両親に?」
ユズリハの唐突な発言にミゲルは困惑した。
彼女からのプロポーズを受け入れる形で二人が結婚して暫く。結婚自体が急だったこともあり、ハイウィンドで暮らすユズリハの両親を招くことは出来なかった。
手紙で結婚は報告しているし二人ともとても喜んでくれてはいたけれど、まだきちんとミゲルのことを紹介できていない。
前に一度、ユズリハの両親がサンドロックへやってきたことがあったがあの時はユズリハとミゲルは良き友人としての付き合いしかなかった。恋人関係になる前だったのでミゲルは彼女の両親と直接会話するような機会もないままだった。
尤もユズリハの両親は娘が選んだ人なら大丈夫だろう——と結婚相手の年齢や性別はおろか経歴さえもあまり気にしないタイプの人ではあったのだけれど。
「最近は私の仕事も少し落ち着いてきたし、一度ハイウィンドに帰ろうかなと。ミゲルの都合さえつけば一緒に来てくれたら嬉しいんだけど、どう?」
幼馴染のニアにも「偶には里帰りしたほうがいいんじゃない?」なんて言われてしまっている。
実際、ビルダーになってサンドロックにワークショップを構えてからハイウィンドに帰ったことはない。手紙のやり取りはしているけれど忙しいときはそれさえも疎かにしてしまうこともあった。
「確かに、一度君のご両親にはきちんと挨拶すべきだと思っていたところだ」
「まあ、両親はそこのところあまり気にしない人ではあるけどね。それだけ私のこと信頼してくれてるんだろうけど……」
無論、愛娘の選んだ伴侶がどのような人間なのか気にならないわけではないだろう。
流石に一切改心していない犯罪者を結婚相手として紹介したら卒倒してしまうかもしれない。自分たちの娘ならば素敵な人をパートナーに選んだのだろう、と思ってもらえるのはこれまでの信頼関係によるところが大きい。
ミゲルならば両親はあっさりと受け入れてくれるだろうという確信もある。娘婿のことをまるで実の家族のように歓迎してくれるだろう、とも。
「サンドロックも素敵な町だけどハイウィンドもいいところだよ」
「……君が故郷の話をするのは珍しいな」
「一度ミゲルと行きたい場所ではあるからね。ハイウィンドだけじゃなくてアタラやポルティア、バーナロックなんかも行ってみたいと思ってるけど」
付き合い始めてからのデートは酒場やオアシスなどが多かったし、結婚後も含めて二人でサンドロック以外の町へ出かけたことはない。
夫婦でどこかへ旅行、というのは憧れではあったけれどお互いに忙しくてそのような計画を立てるのは難しかった。
「実を言うとミゲルと行ってみたいハイウィンドの美味しいご飯屋さんとか、観光名所なんかはもうリストアップしてるんだよね。確か実家の近くにあるお店にハイウィンドの特産品が売ってて——」
「それは流石に性急……というか、君のご両親に挨拶するという話だっただろう?」
「それはそうだけど、ただ挨拶して終わりなんてつまらないでしょ? サンドロックにはない食べ物を味わったり、景色を楽しんだり、君との思い出を増やすことも大事なことだよ」
サンドロックでの穏やかな暮らしも好きだけど、サンドロックでは味わえないような体験もしたいのだと笑うユズリハの表情はいつもよりも幼く見えた。