命の終わりは選べない

 ごほごほと咳き込む沖田を見て、前に会ったときからは想像も出来ないほど弱々しく生気のない白い顔をした男の姿に女は酷く驚いた。

 新選組に潜入して内情を探ってきてほしい。桂からのそんな依頼を受けた女浪人は渋々ではあるが顔を隠し、新入りのふりをして新選組の内部へと潜り込んだ。
 正直に言えば誤魔化せている気はしない。一般の隊士たちはともかく斎藤や永倉と互角に渡り合えるほどの新入りなど、怪しいにも程がある。
 尤も、怪しいからと言ってすぐに斬り捨てられることもないだろう——新選組の猛者たちと対等に渡り合える不審者を真正面から問い詰めるほど彼らも愚かではないだろうというある種の信頼のようなものもある。
 拷問の可能性は否定できないが生憎女は生半可な拷問で口を割るようなことはない。あっさりと口を割り依頼人や仲間を危険に晒すくらいならその場で自決することを選ぶ。

 新入りとして見慣れた西本願寺を案内されている最中、会うことになったのが沖田総司だった。
 彼が体調を崩していたことは知っている。池田屋での一件、新選組と行動を共にしていた女は沖田が激しく咳き込み苦しげに顔を歪める姿をこの目で見ていた。
 あの時は風邪でも拗らせたのかと思っていたがそれ以降も治る気配はなく、禁門の変で長州の勢力を追討しようとする沖田と対峙したときの彼は明らかに様子がおかしかった。どこか精神が不安定なように見えて心配だったのだが、暫く会えないでいるうちにまさか起き上がることすらままならないほど衰弱しているとは。
 ——沖田の命を蝕む病は労咳だ。里にいた頃も何度か労咳に苦しむ者の姿を見たことがあるし、脱藩してからもそのような病人を見てきた。労咳で事切れてしまった人の姿も。
 不治の病とされているその病気の治療法を模索している者を知っている。ただし未だ成果を得られたという話は聞いていない。

 あんなにも強かった人が病を患い臥せっている。戦場で強敵と相見えた末に敗れ命を落とすのならともかく、刀を振るうことも出来なくなってただぼんやりと死を待つことになるのがどれだけの絶望感であるのか、女には想像も出来ない。
 もしも自分が同じ境遇であったなら、暗躍する片割れを止めることも出来ず見知った人々が戦場に赴く背中を見送り彼らが命を散らす様を見て何もできない己がどうしようもなく辛くなってしまうだろう。自らが戦場で致命を負い、死を自覚するよりも余程恐怖を感じる出来事だ。
 沖田が命を落とすのは戦場で、新選組の一員として誰よりも戦果を上げてから死にゆくものだと思っていたのに、現実はそんな死に方を許してはくれない。

「いつかお前が刀を振るう姿を見てみたいものだ」
「……もう無理ですよ。今では起きていられる日のほうが少ないくらいですから」

 寂しげに笑う沖田を見て、この男にこんな死に場所は似合わないと女は思う。
 男が以前と同じように楽しげに刀を振るう美しい姿を、もう一度見たい。不治の病を克服するなんて、奇跡のようなことではあるけれど。