幸福に包まれて

 傍らで眠るリンハルトの頭をそっと撫でる。
 眠っている彼の姿を見るのは然程珍しくもない。教師と教え子の関係であった頃は授業中うとうとしているリンハルトの姿をよく見かけたし、授業にも出ずに昼寝している彼を注意したこともある。
 いつもの、日常の風景。今のベレスにとっては特別なものに思える。
 少し前までは戦争で昼寝どころではなかったが今は戦争も終結し、穏やかな日々だ。
 フォドラを統一に導いた英雄のような存在としてベレスは忙しく走り回っているが、それでも血を流しかつての教え子たちと殺し合っていたあの頃と比べれば随分と気が楽だった。
 眠っているリンハルトを起こすのは忍びない、と幸せそうに寝息をたてている青年の顔を暫く眺めていたのだが――。

「僕の寝顔なんか見て楽しいんですか、先生」
「……起きていたのか、リンハルト」
「今起きたんですよ、貴女の視線を感じて」
「リンハルトがその程度で起きるとは思えないけど」

 大方、少し前から起きていてベレスに頭を撫でられているときも寝たふりをしていたのだろう。
 意地の悪い人だ、なんて。
 確かに元々教師と教え子ではあったが今では彼とは将来を誓い合った男女の仲だ。まるで子供のように伴侶の頭を撫でていた、なんて本人に知られるのは流石に少し恥ずかしい。

「それと、呼び方。私はもうリンハルトの担任教師ではないのだから先生、と呼ばれても困る」
「いいじゃないですか、たまには。僕にとっては先生だったんですから」
「……私がリンハルトに名前で呼ばれたい、と言っても?」
「…………それはずるいじゃないですか」

 伴侶に先生と呼ばれるのはそわそわしてしまって落ち着かない。
 少し前までは当たり前のように呼ばれていた筈なのに不思議だ。

「ベレス」
「リンハルトに名前を呼ばれるのは特別な気持ちになる」

 きっとこれが幸せなのだろう。