*敗北if
よくやってくれました、と言葉を紡ぐギムレーの声には何の感情もこもっていない。
ギムレーの命令でかつて仲間であった者を殺し尽くしてきた。最後の一人となった少女もマークの術で吹き飛ばされ今は地面に転がっている。
「褒美です。その女の命は好きになさい、マーク」
「……ありがとうございます、ギムレー様」
地面に転がる女に意識はない。命を奪うつもりで術を放ったのだ。まだ息があるだけ奇跡だろう。
少女……ルキナは何をしても心が折れなかった。母親が大好きだった父親を殺害したあの時も、仲間が悉く殺されても。自分は必ずギムレーを倒し世界を救うのだと立ち上がってみせた。
だが、今回ばかりは衝撃が大きかったらしい。ギムレー教団最強の駒として自分たちと敵対していた存在が、自分の弟だったのだからそれも仕方のないことだ。
父クロムが亡くなった日、マークは母と共に在ることを選んだ。マークはまだ幼さを残していたがそれがどういう意味を持つか分からないほど子供でもなかった。
父の死を嘆き、ギムレーの器となったのが自身の母であることに気付かないままギムレーを憎んだ姉には何も告げず。正体を隠していつか彼女の最大の敵となる自らの姿を想像して自嘲した。
「まー、く……どうして……」
「気が付きましたか、ルキナさん」
「…………っ」
苦しそうに呼吸を繰り返す女を拘束して、マークは小さく笑みを浮かべる。
「なぜ……殺さないのですか……」
「姉弟が一緒じゃないと父さんも母さんも悲しむでしょう?」
「……お父様もお母様も、ギムレーに殺されたんです……二人はきっと、こんなこと、望んでいない」
「……何も知らないんですね、姉さん。僕はそんな姉さんも好きですよ」