ジョーカーにとって、カムイは女神でありまた世界そのものであった。
幼い自分に居場所を与えてくれたあの日から、彼女が自分の光である、と。落ちこぼれであった自分はカムイの恩に報いる為に厳しい指導に耐え抜き、戦闘も家事もこなす有能な執事になったのだ。
そう、この方の為に命を落とすのならば本望だと思ってしまえるほど。
そんな自分の中に芽生えた忠誠心とは別の感情に気付いてしまったのは何時だっただろう。相手は主。決して許されない感情であると、押さえ込まねばならないものだと思っていたのに。
「……ジョーカーさん。好き、大好きです。私はあなたのことを執事ではなく……男の人として」
「……そのようなことを言われたら、俺も我慢できなくなりそうです」
カムイに好きだと告げられ、執事としてではなく夫として傍にいてほしいと――否、自分のことを人生の伴侶として生涯お傍に置いてほしいと願った。
好きなのだと伝えてしまったら、今の主と従者の関係を壊してしまったら、きっと元には戻れない。だから距離を置き、遠くから彼女の幸福を願うつもりだったのに。
もしかしたら、幼い頃からずっとこの仄暗く重い恋情を、押さえ込んでいたのかもしれない。それに気づかなかった……または気付いていないふりをして自分の心を騙して。
世界で一番大切にしたい人を、このまま自分の手でめちゃくちゃにしてしまいたいとも思う。我ながら矛盾している。
触れることさえ戸惑ってしまうことも、彼女が壊れてしまうほど愛したいと思うのも、どちらも本心。
主であり妻でもある女性を組み敷いてしまっている今の自分の状況に思わず溜息。
「カムイさん……?」
ふと、カムイがジョーカーの頬を優しく撫でた。白く綺麗な指がするりと這う。少しくすぐったい。
愛しい人が何を考えているのか分からず困惑する。
「ジョーカーさんが私のことを大切に想ってくれていること、私はちゃんとわかっていますから」
「……全く、カムイさんにはかないません」
嗚呼もう、この方は。
ふわりと笑んだカムイに、理性の糸はぷつりと切れてしまいそうだ。
「愛していますよ。俺は、貴女のことを、ずっと欲しいと思っていた。永遠に手放すつもりはありません」
「ジョーカーさん……」
「俺が貴女に触れることを、壊してしまいそうなほどの愛を注ぐことを、どうか許してください」
ドロドロとした、矛盾だらけの感情。
決して綺麗ではない愛情を、それでも受け止めて、愛してくれるこの人は、やはり女神だと思った。