恋患い

 ジョーカーさんのことが好き、なのだと思う。
 幼い頃から自由もなく一人だった――否、きょうだい達がよく遊びに来てくれていたけれど、それでも完全には埋めることの出来ない孤独を抱えていた私の傍にずっといてくれた人。
 しかし私は王女で彼は執事である。身分が違う。彼にこの気持ちを伝えてしまっても、きっと私は彼を困らせてしまうだけだ。王女と執事が結婚、なんてことになったら国民もどう思うだろうか。もしかしたらジョーカーさんのほうが悪く思われてしまうのでは、と。
 北の城塞にいた頃に読んだ、身分違いの二人の恋を描いた小説にそのようなものもあった。あの小説がフィクションであることは理解しているけれど、あり得ないと笑い飛ばすことが出来ないくらいリアルだったことを覚えている。
 嗚呼そういえばあの本も王族とそれに仕える執事の恋だったか。双方想い合っているのにお互いの立場を理由に結ばれなかった男女の話。
 ……ジョーカーさんが、私を恋愛対象として意識してくれているかは、わからないけれど。私は彼の主。彼が私に親切にしてくれても、それは世話をする対象だからという理由しかないのかもしれない。思わずそう考えてしまう。
 私はこんなにネガティブだっただろうか。いっそのこと彼と共に働くメイドであれば良かったのに、と思ってしまうのだ。



 カムイ様は命をかけてお守りすべき主であり、俺にとっては居場所を与えてくれた唯一の存在である。
 そんなカムイ様にお仕え出来ることは幸せであると。自分にとって最上の幸福だと思っていた。
 いつからか、この立場が苦しいと感じるようになった。カムイ様にお仕えすることは苦ではないしこれからも執事としてお傍に在りたいと思う。それはまぎれもない事実だ。
 しかしカムイ様は俺を恋愛対象としては見てくれないのだろう。王女と執事。当然だ。本来なら恋愛感情を抱いてはいけない相手を好いてしまった。いつ、どこで好きになってしまったのかは覚えていないのだが。
 王女として、いつか誰かと婚約なさるのかもしれない。報告を受けたとき、俺は主を笑顔で祝福出来るだろうか。
 もしも執事ではなく貴族のお坊ちゃんであれば自分にも僅かな可能性があったのだろうか、と考えてしまう。執事にならなければきっとカムイ様と会うことも、ましてやこうして会話することもかなわなかったのだろうが。
 どちらが幸せだったのかは分からない。俺は執事として、苦しみを誤魔化しながら生涯カムイ様にお仕えするのだ。