毒に侵された思考

「……母さんから貰った戦術書、か」

 1つはギムレー様から、もう1つは異界の母さんから貰った全く同じ戦術書。
 異界の母さんは敵かもしれない、顔も見えない僕にこれを譲った。僕がこれを敵に渡すかもしれないのに、そんなことはしないと断言した。
 僕の知っている、けれど何年も前に失った優しい笑みと声で。
 仲間だった人達に何を言われても揺るがないと思っていた僕の決意が揺らいだのは異界の母さんのせいだ。あれは僕の本当の母さんではないと分かっているのに。

 ギムレー様から死んだほうが良かったと思うくらいきつい罰を受けるかもしれないけれど、覚悟は出来ている。
 僕は母さんから貰った2冊の戦術書を抱えて歩き始めた。僕にとって数少ない母さんとの大切な思い出。
 かつての仲間に会っても気付かれないようにフードを深く被って顔を見えないようにする。ギムレー様に忠誠を誓う僕が屍兵に襲われることはないけど、昔の仲間との戦闘はきっと避けられないだろう。
 頬を伝った生温かい何かには気付かないふりをして。

(母さんがギムレー様の器に過ぎなかったとしても、母さんは生きてます)

 誰もが器となった母さんは死んだという。
 だけど母さんの亡骸はどこにもない。死んだのなら僕をここまで育ててくれたギムレー様は、母さんは誰なの?
 優しくされなくても構わない。僕が駒でしかないのならそれでもいい。母さんの役に立てるのなら、僕は満足だ。
 僕はあなたの唯一の味方で在り続けると決めている。その結果、破滅と絶望しか残らない闇に包まれた世界になったとしても。
 ギムレー様に近付きすぎた僕には最早希望が眩しくて、毒にしかならない。衰退していくこの世界は居心地が良かった。