幸福な子羊

※都合の良い捏造

「ンンさん、幸せって何だと思いますか」
「幸せ……ですか?」
「はい。僕はよく不幸だ、可哀想な子だと言われますから」
「ンンにはよくわからないのです」

 母親が邪竜であったこと。父親が命を落としたこと。母親を見捨てることが出来ず姉弟で争ったこと。母親が死んでしまったこと。その全てが不幸だと人々は揃って口を開く。
 邪竜の息子だ、手下だと意味のない暴言を投げかけられることもある。それは僕が今までしてきたことを思えば当然の報いなのだが、無意味な暴言に耐える僕を見てまた誰かが不幸だという。僕が本当に不幸だったのならギムレー様は僕を駒として利用せずに殺していただろう。
 これまで僕が屍兵を率いて殺めてきた人々の身内に、友人に、恨まれて突然斬りつけられてもおかしくない。
 何よりこうして、散々苦しめた相手と話すことは許されないだろう。僕は彼女にとって親の仇も同然なのだ。それを考えると僕は誰よりも幸せではないか。

「実は、僕は今でもギムレー様を母さんだと思っています」

 ギムレー様が倒されたとき、優しい母さんの声が聞こえたのだ。
 それは僕の頭を撫で、戦術を教えてくれた記憶の中の母さんと同じ声。ギムレー様に消されてしまったものだと思っていた母さん自身の心が生きていた。
 優しい、だけど悲しみを含んだ声は僕の名前を呼び、そして謝罪だけを残して消えてしまったけれど、僕はその声に救われたような気がした。

「僕は、幸せなんですよ。人が言うほど不幸ではないです」
「マークが幸せならンンはそれでいいと思うのです。ンンもマークがいてくれて幸せなのですよ」

 世界を破滅に導こうとした僕がいて幸せ、なんて言われるとは思っていなかった。
 マークは大切な仲間なのです、と笑うンンさんの言葉は僕の中の重い鉛を溶かしていく。やっぱり僕は幸せ者だ。