「独りにしないでくれ……」
この人は、どれだけつらい経験をしてきたのだろう。
私は北の城塞に幽閉されていたけれど、兄弟や臣下がいてくれたから寂しくはなかった。過去のことはあまり語りたがらないからわからないけれど、ゼロさんには心の拠り所となる――支えとなる人がいなかったのかもしれない。
独りにはなりたくない、と珍しく弱々しい声を漏らす彼の頭を優しく撫でる。昔の夢でも見たのだろうか。
話せない過去が多い彼と共に未来を語りたい、未来なら語れるのではないか、と一緒になることを選んだのは私だ。この手を離すつもりはない。
「大丈夫ですよ、私はここにいますから。何があっても、あなたの隣に帰ってくると約束します」
ゼロさんの隣は、私の帰る場所ですから。彼と結婚すると決めたあの日に、プロポーズを受けたあのときに、思ったのだ。彼の精神的な支えになりたいと。
私と二人きりのときだけ、たまに普段とは違う姿を見せてくれるのは彼が私に心を許してくれている証拠だと思っていいだろうか。
明日にはまた、いつも通りになるのだろうけれど、今だけは彼の心を癒していたい。