夢であるならば

 夢ならばどれほど幸せだっただろうか。
 灰色の空も、足元に転がる屍も、私に非情な命令を下す父さんの声も、全てが夢だったなら。
 目が覚めておはよう、と挨拶をすればおはようと返してくれて。怖い夢を見ていたの、なんて話せば大きな手で私の頭を撫でてくれる。
 ――そんな当たり前のことを望む資格なんて私にはないから。

 神竜ナーガ。何故、何故父さんを救ってくれなかったの。
 私から優しい父さんを奪った邪竜を、私はそれでも恨むことが出来ない。父さんの姿で世界を滅ぼす邪竜を傷つけることは出来ない。
 友を裏切る道を歩む覚悟は、ある。今となっては神竜の力なんて毒でしかないのだから。

 フードを深く被って出来るだけ顔を見られないようにして、足元の屍を蹴った。彼は私が殺した。そう、私が。
 あんなに怖くて震えていたのに手にかけた瞬間、その恐怖はスッと消えてしまったようだった。事切れた彼は父さんを殺そうとしていたらしい。
 まさかかつて私の友だった人達以外にも父さん――ギムレー様を倒そうとする者がいたなんて。
人はどれだけ必死に足掻いても一瞬で死んでしまう。ギムレー様の圧倒的な力に、ギムレー様から必要とされた私の戦術に、翻弄されて。

 これが夢だったら私も普通の女の子のように生きられたのだろうか。
 父さんに戦術を教わって、友達と遊んで、恋をする。そんな何気ない生活。私がどれだけ望んでも手に入らないもの。
 夢はいつか醒めるけれど、これは決して醒めない悪夢だ。

 私はギムレー様の駒。
 失われてしまった父さんの分まで私が幸せを望むことは出来ない。