欺瞞だらけの箱庭

 イーリス王子。
 それは産まれたときの僕の肩書きだった。クロムとルフレの間に産まれた男女の子供、ルキナとマークは民の希望だと、そんなことを言われたのを今でも覚えている。
 産まれてからの数年間は親の愛情を受けて育った。母さんと一緒に戦術書を読み、父さんに剣の稽古をつけてもらう。そんな何気ない日常が僕は大好きだった。

 あの日、母さんが父さんを殺してしまうまでは。

 平和だと思っていた僕の世界はかりそめのもので、全て崩れ落ちてしまった。
 母さんは世界を滅ぼす邪竜にその身体を奪われ、まるで別人のようになった。僕はそれでも世界の為に母さんを犠牲にする選択が出来ず、ギムレー教団の駒として生きる茨の道を選ぶ。
 母さんから教わった知識も、父さんから教わった剣術も、全てを消し去る為に使うのだ。

 思わず、乾いた笑みをこぼした。
 袂を分かつ姉に剣を向けるのが怖いだなんて、僕はまだまだ未熟だ。ギムレー様に忠誠を誓った筈なのに。
 王女であり人々の希望である姉と、王子でありながら自ら望んで邪竜ギムレーの手に堕ちた弟。おとぎ話のような展開だ。
 ギムレー様にとって僕の姉は邪魔な存在でしかない。この先、必ず殺すよう言われるだろう。
果たして僕はそのとき平常心を保ったまま、彼女を殺せるだろうか。