後日野球部は、練習したいとうずうずする清峰を無理やり座らせ、放課後だというのにグラウンドで輪を形成し、とある議題が上がった。
【清峰・要バッテリーは幼馴染みに何をしてしまったのか?】である。
「ほら、一番全部知ってそうなのは清峰くんですよ。吐いてください、今更どんなことをしていても君たちが性格悪いことに変わりはないんですから」
「そうだよ、要くんも!今更なんだから何か思い出して!」
「無茶苦茶言うなよォ!あと傷ついたからね!?何度も言うけど俺は誰かに嫌われていると思うとストレスで眠れなくてですね、」
「ああ、だから要くん今日はそんなくま作ってきたんですか。やめてください、睡眠不足で練習に出たら吐きますよ?」
「そんなこと言われても寝れんもん!!!」
「うるせーな!…おら、こいつじゃなんも覚えてねェし話になんねェだろが。話せ清峰」
「清峰くん、」
野球部全員の視線が清峰葉流火に突き刺さる。
聞けば聞くほど有望株である神田莉子。当然野球にも詳しく、さっぱりした性格なのは見て取れるし、昨日の会話からも明らかだ。
とにかくマネージャーとしてこれ以上ない逸材なのだ、逃がすわけにいかないとみんなが彼らに詰め寄った。
元プロ野球選手の父を持ち、スポーツジムの中で鍛えられた肉体とデータを眺め続け、あまつさえ強豪シニアの選手たちのデータ収集まで行っていたのだ、「野球を嫌いになった」というには何か理由がある。
そしてそれに対し回答を出せていたのは昨日時点で清峰だけ、しかも会話のすべてが不穏だ。
野球部は全員が思った、「こいつらまたなんかやってるな」と。
「…莉子は、圭と俺に弱い」
「…はい?」
「莉子は面倒見がいいし、誰かをしごくのが好きだ」
「は?」
「たぶん、圭が頼めばマネージャーやる」
『は〜〜〜〜?』
何言ってんだこいつ。誰もがそう思った。
「あのねえ…そうは言いますけど、彼女けっこう怒ってましたよ。クラスであんな姿は見たことがないし、相当怒らせてると思いますけど」
「清峰くん、本当に心当たりはないの?神田さんに何かしちゃったとか…」
「ない。莉子は圭とデータを見て会話してる時が、一番楽しそうだった」
「へえ…俺たちも意外としっかり対策されてたんですかねえ」
「さあ。俺は二人の会話に混ざったことないから、わからない」
「要くんは?やっぱり何も覚えてないの?神田さんのこと…」
「う〜ん…それが、残念ながら…俺だって悔しいんだよ?あんなかわいい子がもう一人の幼馴染みだっていうのに、なんか嫌われてるっぽいし…」
「そういえば清峰くん、昨日彼女に癇癪がどうとか言ってましたよね?あれはどういう意味なんです?」
「?そのまんまだけど。莉子は圭に忘れられて、拗ねてるだけ。別に、圭を嫌いになったわけじゃない」
「え、ええ〜〜〜〜?」
そこでふと思い出す、たしかに彼女は自身の怒りが癇癪であると認めていたことを。
詰まるところ、彼女は本当に要と清峰に甘いのだ。そうして自分の時間をささげた相手に忘れられたことを嘆いているのだろう。
「なんだよ、ただの痴話げんかじゃねェか!」
「めちゃくちゃしょうもなかったですね…仕方ない、今後は彼女の勧誘は要くんに任せるとして、今日は練習しましょうか」
要くんは寝不足ですから、今日は吐かない程度に、と念を押され、分かりやすく表情を綻ばせる要に皆が呆れる中、山田だけが違和感を感じ取っていた。
自分のことで幼馴染みが拗ねている、なんて男ならだれもが思うだろう、いじらしい、と。
要ならばもっと喜んでもいいはずだ、だというのに、その日要圭はどこか上の空で、ずっと浮かない表情のままだった。