ミルクに沈む(凛月)と同設定
「名前ちゃんどこ行くの」
「え、買い物」
身支度をして玄関へと続く廊下を歩いていると、後ろから凛月に呼び止められた。今起きました、というのが一目でわかる、ぼさぼさな頭と眠たげな瞳、そして部屋着。
「俺も行く」
「…外まだ明るいよ?」
今は丁度お昼を過ぎた所だ。まさか凛月自ら、この照りつける日差しの中を歩くと言いだすとは。
「ガマンする」
「途中で倒れたらどうするの」
「だって…目を離したらすぐ、名前ちゃんまたどっか行っちゃうでしょ」
まだそのことを根に持っていたか。まあそれも仕方ない、かなあ。私の中では完結させてしまったことなので少しだけ怯む。
「こんな軽装じゃ行かないよ…」
「重装備だったら行くの」
「……」
寝起きにしてはなかなか鋭い指摘が来たので、うっかり沈黙をつくってしまった。これはちょっと、断りづらい。
「…早く準備してね」
「うん」
自室へと支度をしに戻る凛月を見送った後、ひとり小さく溜息をついた。買い物、長くかかりそうだ。
凛月がだらだらと支度をしたせいで、出歩くのは太陽が一番高く昇る時間帯になってしまった。零くんの傘を借りてみても、この燦々と降り注ぐ光は私もすこし辛い。幸い用事は済んだけれど、帰るのにもこの日差しを受けなければいけないと思うと憂鬱をおぼえる。もう少し、日が沈んでから戻ろうと、近くの公園の適当なベンチに座り時間をつぶした。ちょうどよく日陰になっていて、入ると汗がすこし引いた。さわさわと風が木々を揺らしていく。
「名前ちゃんなんでそんな平気なの…」
隣で凛月が恨めしそうな声を出す。自分から行くと言ったのに。でもやはり辛そうな凛月は見ていて痛々しく、理由付けて置いてこなかったことを後悔した。
「平気ってわけじゃないけど…まあ凛月よりは人間らしい生活してるから」
ふうん、とさして興味なさそうな声を出して凛月は私にもたれかかってくる。いつも冷え切っている体はこの気温で火照っていた。
「暑い、重い、離れて」
「やだぁ…」
「やだじゃない」
「んん」
肘で押しのけようとしてもうまくいかず、逆に凛月は私の肩に顔をうずめた。
「ねえ、ここ外だよ」
素知らぬふりをして凛月は私の首筋に流れた汗を舐める。
「しょっぱい」
「当たり前でしょ」
私もなんだかだるくなってきて遠くをぼんやりと見つめる。子供も外で遊ばない気温だというのに、私たちはこんなところで何やってるんだろう。カフェにでも入ればよかった。でも私たちはコーヒーなんかを飲みたいわけではなかったので、やめておいたのだけれど。
「俺もっと、甘いのが欲しい」
凛月の舌が私の肌の上を滑る。鎖骨の上の辺りでそれは止まった。
「…家、帰ってからね」
私も正直同じ気持ちだったので、凛月の申し出を受けておいた。ふふ、と笑う凛月の額にも汗が浮かんでいる。手を伸ばして手のかかる弟の頭を撫でた。
◇ミルクに沈むの続き
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160901
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斜掛