not憑依
喧騒とスカート(霊幻)と同設定
「ヒマだ……」
今日は午後の授業が休講になったので、事務所に早く来ていた。でもやることはなにもなく。モブくんはまだ学校でこの場には居ないし、霊幻さんは依頼者のところへ行っている。なんでもそこは女人禁制なのだとか。なんだそれ、時代錯誤すぎないか。
仕方なくソファで本を読む。課題を片付けようにも、思うように身が入らなかった。
「おう名前、暇なら少し体貸してくれよ」
その声に顔を上げると、いつのまにか近くにエクボが来ていた。
「あれエクボどうしたの。モブくんは?」
「シゲオのとこにいてもつまんなかったからよ、暇してるお前のとこに俺様が来てやった訳だ。さ、レッツ憑依!」
「うわやめろ…てか私に憑依してもつまらないでしょ」
私は大した力を持っていない。せいぜいエクボにさわれたり、スプーン曲げたりできるくらいだ。ここでも、もっぱら事務仕事ばかりやっている。
「んなことねえよ。俺様がその力、有効に使ってやる」
「遠慮しとく…悪用されそうだし」
「だーれがお前の貧相な体を」
「いやそういう意味じゃ、てか貧相ってなんだ」
腹立つ。エクボをひっつかんで振り回してやった。失礼な悪霊は目を回してしまえばいい。
「ちょ……やめやめギブ!!」
「ごめんなさいは?」
「ごめんなさい!!」
適当なところで離してやったら遠心力で吹っ飛んでいった。ぎゃああと悲鳴が遠のいていく。ちょっとおもしろかった。
「ってて……乱暴だな。誰に似たんだ? まったくお前は無害そうな顔して何考えてるかわからん」
「無害そうな顔ってなに…」
「憑依したらお前の思考回路もわかるかと思ったんだがなぁ」
その言葉にまじまじエクボを見ると、しまった、という顔をした。
「へえ、なにエクボ、私の考えてること知りたいの」
「無し無し、今の無し、忘れろ!」
「教えてあげようか」
「おっ憑依させてくれんのか!?」
「違うわ」
手刀をお見舞いしておこうかとも思ったけれど、先ほど吹っ飛ばしたばかりなのでいささかかわいそうに思い、ぐに、と頬をつまむだけにしておいた。やわらかい。
「エクボがねえ、良い悪霊になればいいなと思ってる」
「…お前それ悪霊って言わねえぞ…」
「まあまあ。あと、おかげさまで暇じゃなくなりました。ありがとう」
そう言うと、エクボはおうよ、とそっぽを向いて小さな声で返した。
「あと、守衛さんかっこよかった」
「もうやめろ! …ってそれは俺様を褒めてねえじゃねえか」
「あはは」
「あははってお前…」
悪霊にため息をつかれてしまった。しかしエクボってなんで緑色してるんだろう。葉緑体でも入ってるのか。光合成できるかな。
「…とりあえずロクなこと考えてねえことだけは分かった」
「それはお互いさまですねえ」
ふふ、と笑っておいた。その言葉そっくり返してやりたい。今はモブくんのもとで大人しくしているけれど、いつまた何かやらかすか分かったもんじゃない。神になる、とかいう夢も諦めてはいないようだし。それでも、この悪霊と駄弁るのは少なからず楽しいと思えた。
「エクボって生前どんな人だったの? てか何時代の人? 私的には三代目大谷鬼次似が良いな」
「お前俺様に変な期待持つなよ…なんだそのチョイスは」
そのときガチャ、とノブを回す音が聞こえて、モブくんが来た。
「あ、モブくん!」
振り返り出迎えると、モブくんはエクボの姿を見て疑問符を浮かべた。
「エクボ…? なんで名前さんのところに…?」
あれ、断りを入れて来たんじゃなかったのか。
「おうそれはだな…」
「なんか憑依させてくれって」
おもしろそうだったので、エクボの言葉を遮ってそう言っておいた。
「…エクボ……? どういうこと…?」
モブくんの様子がにわかに変化する。青ざめるエクボはなかなかに見ものだ。
「あっテメ名前! 裏切り者!」
「ほんとのことじゃん」
「やっぱり除霊しといた方が良かったかな…」
右手を伸ばすモブくんにエクボが必死に言い訳と謝罪を並べ立てる。すこし、かわいそうかな。
「あー、モブくん、除霊はいいよ。私エクボのこと嫌いじゃないし」
名前さんが言うなら、と手を下ろしたモブくんとひと息吐いたエクボ。全く厄介な娘だな、という小さな呟きを片耳で拾っておく。それはどうも。
160904
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