密かな想いはやがて 拓海side
「拓海!おい、拓海ー!」
ベッドで寝ていたオレを叩き起こすような大声が聞こえる。
親父の声だ。もう、配達の時間なのか…?全然寝た気がしない。寝る前の出来事のせいか、寝つきはものすごく悪かった。
姉さんの口から聞かされた言葉は、案の定オレが求めていた答えじゃなかった。でももしもあの時、姉さんが血の繋がりなんて関係ないなんて言えばオレはこの地獄みたいな想いを口から出していたかもしれねーし、これで良かったと何度も自分に言い聞かせながらベッドに入って眠りについた。
全然開かない目をなんとか無理矢理開けて、ベッドの上にある時計を見る。
は?まだ配達の時間じゃねーだろ。オレがベッドに入ってから2時間しか経ってない。
じゃあなんで起こしたんだよ…、イラッとしてもオレを呼ぶ声はずっと続いている。
ベッドから出て、真っ暗な廊下を歩きながら階段で下に降りれば酒臭い親父がいた。
飲んだせいか頬を少し赤くさせた親父がタバコを吸いながら、顎でしゃくる。
「なんだよ親父…オレ、ねみいんだけど…」
「綾乃を部屋まで運んどいてくれ」
「ねえさん…?」
しゃくられた方を見ればあの後、そのまま寝落ちしてしまったであろう姉さんが畳の上で小さく丸くなって寝ていた。
その姿が猫みたいで、不覚にも男心をくすぐられる。でもオレはあまり姉さんには触りたくない。姉さんに近づくだけでも、たかが外れそうになるのに運ぶなんてことしたら何か余計なことをしてしまいそうだ。
眠たい思考回路をなんとか働かせて、断る理由を探す。
「起こせばいいだろ」
「とっくに試した。綾乃が寝起きわりーなんてお前でも知ってんだろ」
「じゃあ親父が運べば…」
「お前、40のおっさんに運ばせるつもりなのか?」
あり得ない、と馬鹿にしたみたいにオレをわざとらしく驚愕した顔で見てくる。
これは何を言っても、この馬鹿親父はオレに運ばせるつもりだ…。
姉さんをそのままにしておくなんてできないことは親父には筒抜けだろうし、オレは大人しく姉さんを抱き抱えるために膝をつく。片腕を背中にもう片腕を膝裏に回して持ち上げると、思ったよりも楽に持ち上げられた。
「おー、さすが若えな」
「じゃあな。親父も早く寝ろよ」
「へーへー」
オレはしっかりと抱え直して階段を上がる。途中、腕の中の姉さんが身じろぎをしてオレの首元に縋り付くように顔を埋めた。…直視するとやばいということだけは理解できる。
なるべく姉さんに目を向けないように、姉さんの部屋の扉だけを真っ直ぐ見た。階段を上がりきって、肘で器用にドアノブを下ろして扉を開ける。目に入った布団にすぐに姉さんを下ろした。
とりあえず、危機は去った気がする。
布団に下ろした姉さんは目を開けないけど、身体にかけるものを探すように手を彷徨わせた。それに気づいたオレは足元にあったタオルケットを姉さんにかけてやる。
そのタオルケットを掴みながらまた小さく丸まった姉さんが、愛おしくて思わず顔にかかっている髪の毛を耳にかけて姉さんを見つめた。
「……」
伏せられた目は、開くことはない。
桃色の唇をした小さな口から息遣いが聞こえてくる。その唇を奪える血の繋がりがない関係だったら、どれほど嬉しいだろうか。
奇しくも血の繋がりだけがオレの本能を食い止めていた。
「やっぱオレ、姉さんが好きだ」
姉さんが姉さんじゃなかったら、良かったのに。
口に出してしまった言葉は静寂に飲み込まれる。オレの、この想いもいつか消えてなくなんのかな。
「おやすみ」
考えたって答えの出ないことは、どうすることもできない。
オレは姉さんの頬を指先で撫でる。姉さんの頬にそっと触れたその指先が、いつまでも火照っている気がした。
そのままオレは、自分の部屋へと戻った。