一目惚れを賭け金に
「さてと…」
渚沙との電話が終わり、満夜は人通りの少ない場所から自室に戻った。
コンコンコン、コンコン
「…おっ!来たかな?どうぞー!って鍵は俺持っているんだった」
いやー参ったと言うメローネ。
ベッドから部屋の入り口まで行くには時間が掛かりそうだ、とベッドサイドの机に手を着こうとした時。
「ただいま戻りました」
「ああ…って、えぇー!?」
メローネのいる場所の真後ろにある窓から声がした。
振り返ると外から窓ガラス越しにコツコツと指で合図する満夜の姿が。
急いで窓を開ける。ひょいと軽い身のこなしで彼女は室内に入ってきた。
(手慣れているな…)
「ありがとうございます。不在中に困ったことはありましたか?」
「い、いや無かったけど…アンタずっと外にいたのか?」
「いいえ。最初廊下端にある休憩スペースに座ろうと思ったら…私も汚れてることに気づいて」
「あ」
「だから外に出て、庭で電話してきました」
「…ごめん」
「いえ、こちらこそ。知り合いの方とはご連絡出来ましたか?」
話を逸らす満夜。
「ああ!靴持ってきてくれるってさ!」
「それはよかった…あれ?」
「どうかした?」
「えっと、服は?」
「…あ、言うの忘れた」
「あらら」
着替えが無いと外に出れない。
メローネと満夜は打開策を考えていたが、突如満夜が立ち上がる。
「え?え?」
「良い事思いつきました!」
そして、そのまま一人風呂場に向かい汚れた部分だけシャワーを浴び、着替える。
「おにいさん名前は?」
「…メローネだけど」
「私は羽間満夜です。じゃあメローネさん。今から服買ってきますね!」
「えぇッ!?ちょっとミツヤ!?……行っちゃった」
あっという間に満夜は部屋から出て行った。
ホテルから出てすぐ、彼女はスタンド能力を使う。
「…脚でいいか。"クローク・ド・モンスター"」
小声で自分のスタンド名を呟く。
彼女の履いているタイトな黒ジーンズの裾から足の付け根にかけて、ダルメシアンに似た黒の斑点に擬態したスタンドが纏わりついた。
軽やかに走り出す彼女のスピードは尋常ではなく。すれ違いざまの歩行者達をあっという間に追い越す。
黒髪が躍る。全身を切る風が気持ちいい。
「うぉぉっ!?」
「わっ!?」
しかし、浮かれていたのが悪かった。
走っている路地の曲がり角で、荷物を抱えた通行人に追突しそうになったのだ。
満夜はぶつかりそうになった相手の手を反射的に掴み、くるりとターンする。
軽いステップで相手を本来の進行方向であろう位置に動かし、するりと手を離す。
積み重なった荷物も支えていたため無事。衝突はしていないからお互い怪我は無い。
「ごめんなさい!」
「おっ、おい!テメェ!」
怪我の有無を確認し、驚かせてしまったことを謝り、急いで通り過ぎる。
(メローネが待っているし、渚沙もバールで待たせたままだ。急がなきゃ!)
男性は後ろで何か言っていたが、満夜はすでに遥か遠く。
「ニンジャかあいつ…ニンジャ?」
通行人が発した叫び声は、もう彼女の耳には届いてなかった。
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