空飛ぶファンファーレ(2)


「そういえば先生」
「何だ」
「写真、役だったようで何よりです」
「あぁ。彼女は中々いい仕事をする。今後も頼むことがあるかもしれない」
「ありがとうございます」

その言葉に渚沙はにたりと笑んだ。

(しまった…!)

こういう時の彼女はいやらしい。

「頑張った甲斐があったね満夜」
「え?うん」
「サイン楽しみにしてたよね」
「うん!!」

友人の言葉にコクコクと頷く羽間満夜。

「へえ……君は僕の作品のファンだって彼女から聞いたが、本当のようだね?」
「はい!ジャンプ立ち読みして漫画全巻新品で買いました!ピンクダークの少年大好きです!」

何度も読み返してます!反射的に満夜が言うと。

「じゃあ特別にサインを書いてあげよう」
「やったぁ!!」
「渚沙の親友だから特別扱いなんだぜ?…よし」

あっという間に、色付きのイラストを色紙に描き終え、露伴はそれを満夜に手渡した。
サイン色紙を感動し、きらきらしく崇めるように見つめる満夜の頬は緩むばかり。

「生きててよかった…!!」
「大袈裟だな」
「この感動をどうやったら伝えられるか分からないですけど!絶対大袈裟じゃないです私としては!先生、渚沙、ありがとう!大事にする!」

満夜がにこやかに笑い、それを渚沙が微笑ましく見つめる。

「そのままでいろ!」

いきなり露伴は手当たり次第あった紙類を引き寄せスケッチを始めた。
満夜は驚くがそのままサイン色紙の喜びに浸る。

「満夜ッ!本が好きだと言ったな。家にある物を読んでいい。寛げよ。あと渚沙と何か会話しろッ!いつも通りに!ああイメージが浮かぶ、浮かぶぞ!」

ペン先が折れるんじゃないかと心配になるくらい勢い良く線を引き出した彼を見て、渚沙が苦笑いをする。

「こうなると露伴さん暫くこの状態だから、付き合ってもらっていい?」
「うん。久々だからお喋りしよう?」
「よし!」



結局彼の創作意欲がこの後ヒートアップし、予定はずれにずれ込んだ。



「──先生のせいで飛行機に乗れなかったんですけど」
「あ〜…悪かったよ」
「悪かったぁああああああ!?今日海外に行くって伝えましたよね!!飛行機の搭乗予定時刻も!なのにスタンドまで使って止めます?!」

叫ぶ親友。知り合い程度の相手では借りてきた猫のように大人しいのに、今はまるで猛獣だ。

(本心を包み隠さず伝えられる相手が増えたのは良いことだけど…)

「スケジュール何とか調整してイタリア行きのチケット取ったのに!今月しか自由に動ける時間無いのに!なんてこと!」
「だから悪かったって言ってるだろ!!」
「馬鹿者ォオオオオッ!!!!謝って済むなら警察は要らないんだよッ!」

渚沙が叫んだ途端。照明が弾け割れる。
彼女の感情に合わせ、スタンドが暴れているのだ。
露伴はキュッと口を噤む。
下手なことを言うと今度は自分の頭がああなってしまう。

「悪かったよ!!そ、そうだ!僕の取材の邪魔しないなら」
「ア"ァ"ッ?」
「僕の取材時期と重なりますが、それでよろしければお詫びに旅行先のチケット、ホテルを手配します」
「イタリア語。話せる・書ける・理解できるようにしてくださいね」
「はい」

若干の脅迫を経て、彼女たちのイタリア行きが確定したのだった。

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