この色を私は知っている
露伴が編集者に交渉(という名のスタンドを行使)し、予約したローマ直行の飛行機。
過去の経験から墜落しないかと満夜は内心冷や冷やしていた。
「いいか君達。康一君の時の様に変な輩に絡まれたらすぐ逃げろよ」
「き、気をつけます」
「先生も事件や歴史的建造物の立ち入り禁止区域に入らないでくださいね」
「いやいや、先生はそんなことしないでしょ渚沙」
「バレなきゃいいだろう」
「え"?」
更に続く軽口の応酬。宥めても不死鳥のごとく蘇りヒートアップするので、満夜はそのうち相手をするのを辞めた。
仕方なく単発のアルバイトをした金で購入したガイドブックに目を通し始める。
「満夜。満夜!」
「ん…」
「着いたよ」
「ごめん、寝ちゃってた」
「早く降りるぞ」
「はい」
これから露伴は別行動らしく、空港からフィレンツェ行きの列車に乗り込もうと手続きをしていた。
「君が寝ている間に渚沙の要望通り"書き込んで"おいた」
「あ、ありがとうございます!」
「じゃあな。何かあっても電話するな」
「は〜い」
「え、あ はい…」
漫画のことで頭がいっぱいなのだろう。
彼はその細い足をキビキビ動かして二人の前から去って行った。
「まぁフィレンツェに行くならきっとウフィツィ美術館に行くんだろうけど…」
「私達はどうする?」
パンフレットは見たが目的地は決まっていない。
卒業論文とはどういうものなのか。数多くの都市の中からどこへ行くのか。
(何はともあれ。彼女のための旅行だ)
空港出口からすぐ満夜は意見を仰いだ。
「これからどこへ」
「ちょっと待って」
「?」
渚沙の声にピタリと止まる。
少し硬い雰囲気になった親友に、満夜は辺りを警戒しつつ声を掛けた。
「何か気になるものがあった?」
「…うん」
淀みなく歩を進める後ろ姿は先程の露伴と瓜二つ。
自身もミュージシャンとして作曲し、ドラマや映画の劇伴(伴奏音楽)に携わることもある彼女の琴線に、惹かれるものがあったらしい。
(公園…?地元の憩いの場だろうか?)
ちらほらと場所を空けて佇む人々。その中心に渚沙は向かっていった。
後に続いていくと、そこでは路上ライブを行っており、演奏者の足元には楽器ケースと貼り紙が。
"暇な人はどうぞ"
渚沙は観客の中をするりと通り抜け、演奏者の真ん前を陣取った。
二人の奏者は黒と白の対照的な服装を身に纏い、息ぴったりの音程を刻んでいる。
途中渚沙の視線に気づいた二人は驚いた顔をしたが、音程にぶれはなく。
演奏が間奏に入ったらしい頃、渚沙は楽器ケースに札束を突っ込み満夜の元に戻ってきた。
「中々良いものを聴いたわ」
「だろうね。長く聴いていたからそうだと思ったよ」
「あ、バスが来てる」
「乗ってみようか」
「えぇ」
驚いて目を見開いている男に手を振りながら渚沙が提案してきたので、満夜はその案に乗る。
ボスに処刑されず五体満足で動くソルベとジェラートの二人が、唖然とした表情で彼女等を見送った。
バスの中は案外空席があり、二人は腰を落ち着けることができた。
「メジャーな観光地は行きたいわね」
「うーん。トレビの泉は?」
「行きたい!」
「コイン後ろ向きで上手く投げれるかな?」
「私は噴水の彫刻が気になるわ。それより満夜、はしゃぎすぎて落ちないようにね」
「はい」
前科がある満夜は殊勝な態度で頷いた。
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