(4)
過ごしやすい陽気の下。
フィレンツェの美しい景観と日の光に目を細めつつ、四人は歩いていた。
「フッフッフ…満夜を改造してくれるぞ」
「待って渚沙。いろいろおかしい」
「改造するって、何処でだ」
「イタリア旅行初めてだからなぁ〜…」
「どこ行けばいいか分かんないよね」
「ね〜」
「無計画かよ…」
首を傾げる二人。
「じゃあ、オレのオススメの店に行くかい?」
「「異議なし!」」
「…」
(こいつ等メローネの"仕事着"見たこと無いから着いて行くんだろうな…)
変な服選ばねえだろうなと、ギアッチョは少しだけ心配しながら三人の後を着いて歩く。
歩いて数分後、心配は現実のものとなった。
「此処がオレが偶にお世話になってる店だ!」
「おい」
「安価だし、普通とは違うものが手に入る」
「メローネぇええええええッ!!」
「いたいいたい!うおえっ!?脇腹入った…!」
ショーウィンドウからも分かるほど、その店は異彩を放っていた。
「「…」」 (ポカーン)
「オメーのせいで引かれてんだよぶち割るぞ!!」
「冗談だって〜!そうカッカするなよー」
「この…!誰のせいでキレてんのか」
「「なんだ冗談か〜」」
「お前ら平和だなオイッ!」
まともな服より奇抜だったり露出が多い(卑猥な意味の)デザインが犇く店の前で騒ぐギアッチョ。
一人でツッコミを入れ疲れた彼は店の外にあるテラスに座って、三人の買い物を待つことにした。
(疲れた…メローネの野郎調子に乗っておちょくりやがって)
数分後。そんな彼の傍らに女性が立ち、声を掛けて来た。
「ょ…さん、ギアッチョさん」
「!…なんだ。どうした」
「友達、渚沙とメローネさん盛り上がっちゃって….。テンションについていけなくなったので逃げてきました」
「盛り上がるのかよッ!」
「あはは…渚沙は日本で音楽活動をしているんです。番組やPVの衣装の参考にしているんだと思います」
「フーン」 (だから名前を聞いたことあったのか)
会話していたところで恐る恐る満夜が聞いてくる。
「あの、一緒に座っても良いですか?」
「さっきホテルで座ってただろ…一応連れなんだ。許可なんていらねえよ」
「っ!ありがとうございます!」
ただそれだけなのに頬を赤らめ、はにかむ満夜に背中がむず痒く感じる。
※満夜は漫画のキャラと過ごせて、嬉しくてテンションが上がっているだけである。
「ほら、座れよ」
「お、お邪魔します。あ!飲み物買ったんで、よかったらどうぞ!」
「…グラッツェ」
未開封の水とオレンジジュースがあったが、ギアッチョは水のほうを取る。
"仕事柄"仲間が淹れたものか自分で買った以外は信用していない。
この水になにか混入しているなら外側から見えるし【凍らせればいい】だけだ。
「…」
「そのお水、おいしいですか?」
「普通だ」
ちらちらと自分を見てた満夜が話しかけてきた。
落ち着きが無い様子に少しばかり警戒する。
「そうですか。此処のお水、感触が違ったんでちょっと気になって」
「イタリアの水は硬水だからな。そっちと違うんだろ」
「おぉ〜…」
「観光ガイドブックにも書いてあんだろ。読んでねぇのか?」
「え?」
きょとん、とこっちを見る彼女。
「すみません。詳しくは…」
「そうなのか」
「はい。あの、さっき初めてイタリアの自動販売機を使ったんですけど」
「おう」
「お釣りが出てこなかったのも…?」
「まぁ、よくある事だな」
「そ、そうなんだ……商品が引っかかって出てこないのも?」
「あぁ。──まさかお前」
「商品取るのに、1000円も使っちゃった」
「アホかーッ!」
「す、すいません〜!」
「人を呼ぶなり店で買うなり何なりあるだろうが!つーかこの"何なり"ってなんだぁあ!」
「ごめんなさい!"何なり"は、ど…どんなことでも!どんなものでもって意味です!」
「…」
「…」
「…そうかよ」
「あ、はい」
律儀に答える満夜を見つめる。
ビビってはいるが瞳を逸らさない。
突発的な自分のこの癇癪に対しても真剣に答える態度。
「…お前ェ、危なっかしいな」
「へ?」
「そんなんじゃ、ぼったくり共のカモにされて有り金全部取られるぜ」
「そんなに?!」
ギアッチョの言葉に彼女は、マジか?そんなにか?と呟いている。
「仕方ねえな。いろいろ教えてやるよ」
「えぇっ!?い、良いんですか?」
「メローネが世話になった礼だ。あの後騙されて実は死んでました〜、なんてなったら寝覚めも悪いしな」
「そんな…ありがとうございます!ギアッチョさんって優しいんですね!」
「ぶハァッ!??」
思わぬ言葉に、飲んでいた水が気管に入る。
(な、何言ってんだこの女!)
「ぎゃああっ!私水噴かせるようなこと言いましたか!?」
「ゴッホゴホゴホッ!…気管入った、ゲッッホ!」
「大丈夫ですか!?」
動揺をなんとか誤魔化そうとついた嘘を本気にされ、背中を擦られる。
何度も自分の背中を往復するその感触に敵意は無く。呼吸も徐々に落ち着いていく。
「落ち着きましたか?」
「あ、あぁ」
「よかったぁ…」
「…」
「ギアッチョさん?どうしました?」
「…」
心配していた満夜が彼の顔を見て笑った瞬間。
今度は心臓が落ち着かなくなったギアッチョだった。
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