(4)


時差ぼけに苦しみながらホテルで朝食を摂った満夜と渚沙はのんびり観光しようと考えていた。
ホテルの受付の人にどこに行くか決めているか聞かれ、決めていないと答えると。

「渚沙、ホテル周辺の簡単な地図もらった」
「ありがとう。どこか良いところないかな?」
「フィレンツェは貴金属と革製品が有名だよ……お、朝市やってるみたい」
「朝市?」
「歩いて行ける距離だよ。どうする?バールも近くにあるみたいだし、疲れたらそこで休憩すればいいと思うけど」
「そうしましょう!」
「よし、じゃあ行こう!」
「おー!」

地図を見ながら行きつ戻りつ。路地を数本過ぎ、右に曲がった先には。

「わぁ!人結構いるね!」
「うんっ!」

活気に溢れた朝市が視界一杯に広がっていた。
大勢の人で賑わっている朝市では様々な店が奥まで広がっており、見ているだけでも楽しめそうだ。

「ボンジョルノベッラ!」
「やぁベッラ!ちょっと店に寄らないかい?」

はぐれないように歩くたび、声を掛けられる二人。

「満夜〜ベッラって何?何故か翻訳してくれない」
「(岸辺先生…)ベッラは美人。渚沙は美人さんだってさ」
「そう言ってたんだ!流石イタリア人!」
「いろんな人に言うから挨拶みたいなものだね。イタリアでは」
「マジ?」
「マジですよ」
「守備範囲広くね?」

そういうわけではないと思うが。

(わざと岸辺先生が翻訳してない…虫除けかな?)

「確かに」
「気をつけようね」
「うん」

(親友に変な虫が付かないように頑張らなきゃ!)

気合いを入れ、満夜は渚沙と朝市を歩き回った。



「いっぱい貰っちゃったけどいいのかな?」
「さあ?…でもお金受け取ってくれないってどうなの…営業として」

両手に荷物(貰い物)を抱え小休止のためカフェ・バールの中に入る。
客引きの人間がいなかったこの店は、狭い入り口の割に中の空間は広い。
静かに流れるjazzをバックミュージックに二人は崩れるように座席に座った。
買い物袋の紐が食い込んだ手をひらひらと振りながら飲み物を頼む。

「すみません。カプチーノと…」
「チョコラータ カルダ?をください」
「はい」

開店してすぐなのか。客は自分達しか居らず、注文の品はすぐに来た。

「君達はジャポネーゼ?観光かい?」
「はい。大学の論文を書きに、昨日こちらに着きました」
「へぇ〜大学生!ジャッポーネの人は若く見えるから分からなかったよ!」
「そうですか?」
「ちゃんと成人してますからね!」
「ゴメンよベッラ達。お詫びにデザート、おまけしとくよ〜」
「「やったぁ!」」

話しかけてくれた店主はお国柄か口達者で、会話が弾む。
満夜と渚沙はいつの間にか客が増えて席が埋まるまで話していた。

「おぉっと、客が増えてきたな」
「わっ!すみませんすぐ席空けます!」
「いいよいいよ。どうせ常連客しかいないし。君達のように観光客が来るのは稀なんだ」
「いいお店なのに…勿体無いですね」
「ハハッ!グラッツェ!そういうことだから安心してゆっくりしていきな!」

店主は愛嬌のある笑みを浮かべ、こちらに手を振りながら他の客に注文を訊きに行った。


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