(8)


「…で?勝負は?」
「へ?」
「服選びじゃねぇのか」

ギアッチョはそう言うと、肩に担ぐように持っていた服を下ろした。
イタリアの冬の時期に似合う、ニットのワンピースが揺れる。
すらりとした形と夜に溶け込めそうな色合いを、満夜は一目見て気に入った。

「かわいい…」
「!」
「ギアッチョさん」
「おう」
「これ、着てみたいです」
「…ごちゃごちゃ考えたって分かんねぇから、似合いそうな服持って来た」

来てみろと促され、満夜は笑顔で試着室へ入っていく。
ギアッチョの後ろでは、にやつくメローネと渚沙の二人が彼の背中を見つめていた。




「どうしてだ…」

(すごくギアッチョさんが優しいぞ!どうなってんだこの世界は!!)

試着室で赤くなった頬を冷ましながら、ギアッチョが選んだコーディネートに着替える。
深更色に染められたタートルネックのニットワンピースは裾丈が膝と同じ位置にあり、体のシルエットを顕著に出しはしないがすっきりとした作りだ。
その上に白のチェスターコートを羽織れば、自分の持ち物であるロングブーツと合わせてコーディネートは完成。
シンプルだが、そのスタイルから女性らしさも見せられる組み合わせだ。

しかし。くるりとその場で回り、改めて鏡を見ると。そこには不貞腐れた表情の女性が立っていた。

「また、あのパターンかな」

お金持ちで才女で有名な渚沙の興味を引くために、側にいる満夜に構う輩は少なからずいた。
メローネとギアッチョが自分に親切なのも、きっと渚沙の気を引きたいから。

(だって、そうじゃないと。ギアッチョが服を選んでくれるなんてあり得ない)

彼等の"仕事"を知る満夜は。親友を護るため。そして自分の心を守るために。他人を疑い、警戒する。

「まぁ、物に罪は無いからね。はい口の端上げて〜。オホンオホン……よし」

腕や肩を回して稼働範囲の確認をすると、期待を振り払うように彼女は試着室から出た。
少し離れた所で話していた三人が、姿を見せた満夜に気づく。

「きゃあーー!満夜かわいい!」
「ベネ!その絶対領域に顔を埋めたい!」
「あ、ありがとうございます」
「何で敬語?」
「着慣れてないから何か恥ずかしくて…。この格好とても好きだけど、コレいつも通りの動きしたらパンツ見えちゃうね」
「確かに」
「そんな情熱的な動きをするのかい?見てみたいなぁ」
「何馬鹿な事言ってんだ!この変態!」
「え?メローネさんさっき見ましたよね?」

その言葉で3人の動きが止まり、場の空気が冷える。
心なしか室温も下がったように感じ、満夜は鳥肌を立てた。

「メローネェ…ッ!!」
「ちょっと待てギアッチョ!タンマ!落ち着けって!?」
「節操なしと思っていたが…ここまでとはなぁっ!!」
「違うって!あぁもうミツヤ!誤解を解いてよぉ〜!」
「え?何の?」

とんと理解していない満夜にメローネは叫ぶ。

「いつもの動きってヤツ!俺も分からないんだけど!?」
「あぁ。私は渚沙のボディーガードもどきみたいなもので。蹴りとか体術の動きをしたらパンツ見えちゃうねって」
「「それのことかーッ!」」

メローネとギアッチョはコントのようにその場に崩れ落ちた。
それを指差しゲラゲラ笑う渚沙の反応や、周りの視線が痛いやら恥ずかしいやらで、満夜は二人に平謝りすることしか出来なかった。

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