(2)
バルベリー二通りからトリトーネ通りを下ってしばらくしたところでバスは止まった。
「このバスに乗ったらローマ内の他の観光地にも行けそうだね」
「えぇ」
道路左側に見えた標識、矢印に沿ってスタンペリア通りを行く。二人は目的地に着いた。
トレビの泉は、ポーリ宮殿の壁と一体となったデザインで、ローマにある最も巨大なバロック時代の泉である。
精緻に三人の神を象った白亜の彫刻が、大勢の観光客に取り囲まれつつ、遠くから彼女等を見下ろしていた。
「そういえば渚沙の卒論のテーマって聞いてなかったよね?どんな感じ?」
「卒論というか、卒業演奏会ね。実はもう決まってて…」
「え!?」
「困ってるのは今度放送するアニメの主題歌・劇中歌・伴奏挿入歌──、簡単に言うと全部ね」
「うへぇー!大変そう!」
「スランプよ!インスピレーションがこれっぽっちも降りてこない!!」
「だから海外に?」
「ちょうど露伴先生に取材の話が来てるの、康一君から聞いてたから」
「成程。アニメはどんな話?」
「えっとねー」
投げ入れるコインを探しつつ話していると、渚沙の手から財布がもぎ取られる。
驚いて彼女が声を上げると、人ごみの中で2〜3人のグループが一斉に動き出した。
(スリの集団か)
人ごみに紛れて、財布を爆弾ゲームのようにあちこち回されても面倒だ。
「鞄抱えて。ここで待ってて」
「分かったわ」
自分のポケットから引っ掴んだコインを高く放ると同時に駆けだす。
満夜は猫のように人ごみをするりと抜け出すと、財布を持っている男を背後から捩じ伏せた。
「ぐえッ!?」
首根っこを踏みつけ、もがき苦しむ男の耳元で言ってやる。
「真面目に働いたほうがいいよおじさん。──次は無い」
取られた財布も中身も無事であることを確認し、周りを一睨みした満夜は渚沙の元へ駆け寄る。
彼女の手を取ると、そのままの勢いで走り出した。
「流石私のボディーガード」
「いえいえ。あっ、移動するからって渚沙の分のコインも投げちゃった」
「気にしないわ。投げたかったらまた来るもの」
「了解ぃ〜」
路上に倒れるスリと静かに沈んだ2枚のコインを残し、彼女等はトレビの泉を去った。
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