(3)


「うぅ〜ん?お前は…魔導書の授与さえされなかった可哀そうな小僧」
「よくご存じで!そうだよォォ!!哀れな少年だよォ〜〜〜!!」

ぐぬぬと歯噛みするアスタはレブチに吠える。

「魔導書は授かったヤツだけの大切なモンだろ!!ユノに返せコノヤロー!!」
「こういう歪んだことが罷り通っちまうのが外の世界なのさ…!そこに行く前に死ぬか?小僧……!」
「逃げろアスター!」
「こんな落ちぶれ野郎相手に逃げてたまるかァー!」

勢いよく啖呵を切ったアスタにレブチは躊躇なく魔法を使った。

「落ちぶれても元魔法騎士団所属だ……オマエなんぞが相手になるワケ無いだろうが!!」

魔力で形を為した鎖が何本も空を切る。そのうちの一本に囚われたアスタは、それでも相手に突進する。

「まだだぁ!!」
「いや、もう終わりさ」

鎖の先端が蛇の顔を模して襲いかかる。
強烈な攻撃をアスタは身動き出来ずに受けるしかなかった。

(なんつう重い一撃だよ……!これが町の外の魔道士…身体鍛えたぐらいじゃあ…歯が立たねぇ…)

「無駄な足掻きご苦労様ァ。頑張ったオマエに良いことを教えてやろう」
「…?」

壁にもたれ掛かるように倒れたアスタにレブチが告げる。

「オレの鎖は触れた者の魔力量を知ることができるのだが…オマエは魔力が一切無い。生まれつきだろうな。そりゃあ魔法が全く使えねぇワケだ…!!」

目を見開き、アスタは固まった。

(何…だよ…それ、…ははは……。それじゃあどんなに頑張ろうが、オレは魔法使えねーのか………)

「こんなヤツがいるとはねぇ…オマエのこれまでとこれからを考えると哀れでしょうがねぇなァ〜〜〜。そこのオマエの友達の天才君も、きっとオマエの事馬鹿にしてるぜ〜〜?」

彼の脳内に今までの努力や、ユノとの約束が思い起こされ、黒く淀んでいく。

(…そう、かもな……ユノは四つ葉に選ばれたんだもんな。オレなんか目障りに思って…)

「オマエはこの世界じゃ、な〜〜んも出来やしない。何もかも諦めな、生まれながらの負け犬くん……!」

(……そう…だよな、どんだけ努力しても…どうにもならない事もあるんだよな)

今までの努力全てが無意味と言われ、アスタが諦めようとした時。


「…オイ。誰が負け犬だ…!」


彼は言い放った。

「そいつは─…」

幼少の頃の出来事と共に。
あの日の約束を胸に刻みながら、怯えて動けなかった自分を助けてくれたライバルを思って。

「アスタは、オレのライバルだ」
「─…は…?」

同じ思いを、同じ夢を追っている。
四つ葉に選ばれた、遠くに離れたと思っていたライバルが。
アスタは歯を食い縛り、肩を踏みつけていたレブチの足を掴んだ。

「まだだ…!!!」

想像以上の力と眼光にレブチが身を離す。
先程まで死に体だったアスタに怯んだのだ。

「情けねーとこ見せたな…ユノ……!ちょっと待ってろ…今、コイツを倒す…!!」

その時。

石造りの壁から、構成する石の一つが外れる。
そして、黒い光を帯びた魔導書がアスタの眼前に現れた。

「魔導書…?」
「やっぱりな。アスタが選ばれないなんてありえねー…!」

ひとりでに開いた魔導書から古びた黒い大剣が現れ、アスタの側に刺さる。
まるで、己を手に捕れとでも言うように。

「な、何なんだそれはァー!?魔力の無いクズがァアアア!!」

自分の優位性を覆す可能性に、レブチが焦る。

魔力が無いアスタだからこそ、この剣が。魔導書が手にできた。
反(アンチ)魔法の魔導書。

クローバー王国の魔導書に描かれる葉の枚数には意味がある。
"誠実" "希望" "愛"、四枚目には"幸運"が。
そして、ごく僅かな者のみが知る事実。

五枚目には"悪魔"が棲む─

壁に写るアスタの影が大きく歪に伸び、羽根の生えた異形を象っていることに。レブチは気づいていた。

「重ッ!!…まさかここで筋力が役に立つとはァァアア!!」
「オレの魔法を無力化したー!?!」
「魔力が無くても、オレは魔法帝になるァアアアアッ!!!」

地面を引きずらなければいけないほど重い大剣を振り、アスタは吼えた。

「諦めないのがオレの魔法だ!!!!」

鈍い音と共に、切るというより叩きつけるといった一撃がレブチを宙高くに飛ばした。
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