(3)
丸太のように太い腕。逞しいゴツゴツとした男らしい手は振りほどけそうにない。
更には、先程まで騒いでいた男までもが静かにしていた。
「なぁ」
「は、はい」
恐る恐る顔を上げる。
「アンタが直したの?」
「あ…」
無造作な黒髪に無精髭。そして筋肉質な体に見覚えのある顔。
偲は自然と身体の力を抜いた。
(不審者じゃなかった…よかった……!)
「オイ!ヤミさんが話しかけてんだろうが!」
「うるさいって。ちゃんと聞こえてんだろ、きっと」
「み…」
「「み…?」」
(見惚れてましたなんて言えるかぁーーー!!)
「見間違いでは…?」
「いいや、この俺の目は誤魔化せない」
「イカサマは見破れないがな!」
「お前もう黙ったら?」
「あはは…」
漫才のようなやり取りに笑っていると。
「見覚えないけど、ここら辺の人?」
「当店ではナンパはお断りしています!!」
奥さんヘルプーー!と腕をブンブン振り回して偲が叫ぶと、ヤミはすんなり腕を離してくれる。
コップを胸元で握りながら急いで距離を取ると、彼はちょっと傷ついた顔をした。
「そんな拒否しなくても…くっそ、今日は良い事無しだな」
「いや否定しろよ!!」
「だってぇ〜」
「ヤミさん。それはキツイです」
「あ?」
「何でもありませんっ!」
「じゃれてないで。ほらお待たせ」
そうこうしていたら、偲が頼んだ注文がカウンター席に運ばれる。
「いい匂い…!美味しそうです」
「あぁ。人気メニューだよ、さぁお食べ」
「わぁい!!」
ナイスタイミング!と彼女は元の席に戻ろうとした。
ギュッ
「こっちで食えばよくね?」
「……い、いやいやいや」
「いやいやいやいや。まぁ遠慮せずどうぞ」
「えぇぇぇぇぇぇっ!?」
今度は手首を掴まれ、彼らの座る席へ強制連行されてしまう。
先程ガンをつけていたトサカヘアーの青年は驚いているので許してやろう、などと考えている間に席に座らせられる。
「お、お邪魔します…」
「オウ」
「そして、いただきます」
(昼御飯食べたら出ていこう)
偲は改めて料理を受け取り、店主に直したコップを渡しながらそう思った。
食べ物に罪はないのだ。
一口サイズに切った柔らかい豚肉を噛み締める。溢れる肉汁。カリカリとしたニンニクの旨みと豚肉の甘味に舌鼓を打ちながらサラダにも手を出す。サラダは野菜本来の甘味とドレッシングが絡み、小皿に何回も沢山掬って食べてしまう。
「う〜ん、おいしいっ!!」
「美味そうに食べるねぇ!作った甲斐があるってもんさ!デザートいるかい?」
「ほ、欲しい……です…!」
「あはは!大丈夫さ、そこの騎士団のお兄さんに払ってもらうから」
「何ィーーーッ!!?」
「自分で女の子引っ張って行っておきながら飯も奢ってやれないのかい!みみっちい男だねぇ!お姉さん、一番高いの頼んでいいよ!」
「やったぁ!!」
迷惑料だと思えばいいだろう。
偲は渡されたメニューの隅々を眺める。
「あ、お兄さん。何か食べます?」
「……」
「返事がない。ただのお兄さんのようだ」
「なんだそれ」
「お!何食べます?一人で食べるのは何か寂しいので、一緒に食べてもらえると嬉しいです」
「ヤミさん!オレはイカ墨パスタ!」
「スポンジケーキ!」
「何勝手にリクエストしてんだよ…ハァ、俺はドリアでいいや」
「「イエーーイッ!!ありがとうございます!!」」
挙手しながらリクエストすれば、案外すんなりと叶えられた偲と青年はハイタッチ。
「じゃあ、仇取ってくれや」
「……え?」
その体制のまま彼女は固まった。