(4)
「ちょうどいいところに来たよお前。マジでちょっと助けろや」「え?」
「二人ともコイツらとジーさんとの賭けに負けちまってな。(何でも言うこと聞くことになったんだが)まぁ、負けっぱなしもアレだから、仇討ってくれや」
「え…?なんで私が」
「行け!我等黒の暴牛に幸福をもたらす女神よ!俺達の飯代が懸かってる!」
「いや勝手に女神認定しないでください」
「誰でもいいさ。今度はお嬢さんが相手かい?賭け金はいくらにする?」
「え?あっあの、私お金持ってなくて…これでもいいですか?」
突然のことに混乱しながらも、偲は手提げバックから自身の魔導書を取り出した。
「「「!?」」」
「この本と自分しか、今の私に賭けられるものがありません」
七つ葉の登場に酒場は騒然とした。
何せ伝説級の代物だ。
「私は、不正も妨害もしないことを己の魂に誓います。私が勝ったら彼等のお金を全額戻してください。貴殿方のいずれかが勝った場合、この魔導書をどう扱おうが自由です。その代わり、そちらもイカサマは無しでお願いします」
イカサマが発覚した場合も、お金を全額戻してもらうことを告げる。
誰かが唾を飲み込む音が室内に響く。しかし、誰も名乗り出ない。
怖じ気づいたのか、あまりのハイリターンに言葉も出ないのか。
「お、オレはやるぜ!」
「では、袖と上着に仕込んだカードを捨ててください」
意気揚々と名乗りをあげた男の不自然な膨らみを指摘すると、男の顔が強張る。図星だ。
「い、いやぁ何のことかな?」
「しらばっくれんのかテメエ!!」
「だ、騙されるほうが悪いんだろ!」
やいのやいのと揉める男を見て、彼女は溜め息をつく。
「そんなことしてると、貴方幸せになれませんよ?」
「………っ!」
途端、イカサマ男の顔面が蒼白になる。
そして、急いで偲の前に賭け金を置いていくと走り去って行ってしまった。
「食い逃げ…?」
「金は多く戻ってきてるから大丈夫だろ」
「そうですか──…で、次は誰です?」
それから名乗り出る者は何人かいたが、皆イカサマを見破られる者ばかり。
見破られてばかりなことに危険を感じたのか。賭けを辞退し金を戻す者まで現れる始末。
最終的には賭け金よりも多くの金が手に入ってしまった。
「賭け金はこれで全部ですか?」
「あぁ」
「じゃあ、ご馳走様でした」
両手を合わせて、食事の終わりの挨拶をする。
立ち上がろうとする彼女の背中に呼び止める声が掛かった。
「待ってくれ!」
「はい?」
「最後に、私と勝負してくれ!」
「…」
「そのジーサンは手強いぞ。なんせ負けちまったからな!」
「う〜ん。私の目的はもう達しましたし、別に勝負しなくてもって気分で…」
店内に残るのはこのおじいさんのみ。
余程の自信があるのか目的があるのか。偲は断るが、おじいさんは粘る。
「頼む!」
「いや、こんな小娘に頭下げて恥ずかしくないんですか?」
「……このジジーはなぁ、自分の村を盛り立てるために一攫千金目指して街に来てんだよ」
「アツい漢なんだ!オレは真剣勝負でジーサンに負けたと思ってるぜ!」
(変な連帯感が生まれている…)
偲はすっかり困ってしまった。
本当は、賭けなんて人生で一度もしたことがなかったのだ。
ポーカーもほとんどしたことがない。
(どうしよう…)