(5)
「なんか皆さん勝手にビビって自滅してましたけど、私賭けなんてやったこと無いんですよ」「「「え!?」」」
「皆さんイカサマ分かりやすいから助かったけど」
偲が正直に告げると、様子を見守っていた店主までもが驚く。
偲は長椅子の背凭れに体重をかけ、天井を仰いだ。緊張の糸が切れたのだ。
「ごめんなさいお爺さん。本当は私、大したことない奴なんです」
「あ、あぁ…」
黙ってしまったギャンブラーのお爺さん。
(魔導書が目的じゃないのか?なら、七つ葉のご利益でも欲しかったのだろうか)
頭を下げ、何度も勝負を願い出てきた姿を思い出す。
「……お爺さんは良い人そうだし」
「?」
「勝負。しましょうか?」
「…あっ、え!?いいのかい!?」
「はい。でも、難しいのは分からないので…なるべく簡単なのをお願いします」
「わ、分かった!」
彼女の了承に、男衆三人は嬉しそうに賭けの内容を決め始めた。
男の友情という奴だろうか。騎士団の二人はさっき金をむしり取られたのを忘れたのだろうか?
わいのわいのと騒ぎながら数分後。
「よし!決まった!これからカードを切って、山札の好きな場所から一枚取る。数の一番大きい方が勝ちだ!」
「はい。分かりました」
店主がトランプを念入りに切り、テーブルの中央に置く。
「私から引こう」
お爺さんが山札の真ん中辺りから引いて、テーブルの上に置いたトランプはダイヤの10。
偲はこれより大きい数を引かなければいけない。
(勝てる数字は三つしかない…)
お爺さんはイカサマをしなかった。
ならば此方も、正々堂々賭けに挑まなければいけない。
覚悟を決め、偲は山札の一番上に手を伸ばした。
風を切るように引いたトランプは。
「ジ、ジョーカー…!!」
「これは?」
「一部の遊びでは最強のカードとして扱われるから──」
「お嬢さんの勝ちだ…!」
「やったぁあああ!!」
勝利宣告を受け、偲は飛び上がって喜んだ。
お爺さん、店主、騎士団の二人にハグをして席に倒れこむ。
「胃がひっくり返るかと思った…」
「ははは、すごいなお嬢さん」
「お爺さんが簡単なルールにしてくれたからです。ありがとうございました。楽しかったです」
そして彼女は魔導書を開いた。
「これ、よかったら」
「え?」
「今日のお礼です。どうぞ」
彼女が魔導書から取り出したのは、ホーリーARM(アーム)と呼ばれる魔道具の一種。
「魔力を込めると傷を治してくれます。太陽が出ているところで使うと効果大です」
「い、いいのかい?」
「はい。このサニードロップは私の魔力で形作られていますから、こっちに何か無い限り使えるはずです。怪我が無いことが一番なんですけどね。"備えあれば憂い無し"ですから」
「──!」
「お爺さんに幸運がありますように……なんちゃって」
ARM(アーム)を渡したお爺さんの手を包み込みながら、偲は言う。
(正直者が馬鹿を見るって展開は好きじゃないんだよね)
紙面上で見たことのあるお爺さんには幸せになってもらいたい。
彼女はそんな念を込めてから、手を離した。
「さて、昼食もいただきましたし。私はこれで失礼いたします。ご馳走様でした」
「ありがとうな…お嬢さん」
「いいえ、それじゃあさようなら」
騎士団の二人に支払いを任せ、意気揚々と偲は店から出ていった。